28
ガタゴト、ガタゴト、魚を乗せた車がゆっくりと進んでいく。
車の後ろには、花としんべヱが後ろ向きに座っている。記憶を失ってはいるものの、とりあえず忍術学園に帰ろう、ということになったのだ。

「………それでね、忍術学園にはヘムヘムっていう忍犬がいて…」

しんべヱは花に、忍術学園のことをいろいろ教えた。もちろん、誰かに聞かれないように小声でだが。
どれも花には信じ難いことばかりだった。

「(それでも、私は確実に"そこ"にいたんだ…)」

自分は、忍者になるためにその忍術学園で生活をしていたんだ。

思い出そうとしても、何も出てこない
記憶を遡ってみても、そこには何もない

忍術学園に行けば、何かわかるのかな…?

***

「ふぅ…さあ、着いたぞ」

土井先生が言うのと同時に、花としんべヱは車から降りた。目の前には立派な門があり、門には「忍術学園」と書かれた看板が掛かっていた。

「(ここが…)」

花は門をじっと見つめる。

なんだろう、初めて見た気がしない…

「あ、おかえりなさーい」

門をくぐって中へ入ると青年が現れた。この人が小松田さんらしい。
入門表にサインをした後、土井先生は花を職員室に連れていった。

職員室には先生が集まっていて(会議でもしてたのだろうか)、花が姿を見せると、先生たちは嬉しそうな、泣きそうな顔をして迎えてくれた。

「おかえり、花」
「よく帰ってきてくれたね」

何も覚えていない花でも、その言葉はとても嬉しかった。

「みんなには会ったのか?」
「いえ、学園に着いて、すぐにここへ来たので…」

山田先生の問いに土井先生が答える。みんな、とは恐らく同級生のことだろう。
早く会いに行ってやれ、と言われて花は六年長屋へ向かった。

先生が教えてくれた部屋の前に来ると、中から人の声がした。花は躊躇ったが、思いきって襖を開けて、声をかけた。

「あ、あの……」

花の声に、一番に気付いて振り向いたのは、隈が目立つ忍たまだった。その人は、花を見ると目を見開いて固まった。
他の人たちも花の姿を確認すると、驚いた表情を見せた。

「………花?」
「あ、はい…あの……」

何を話せばいいんだろう…
記憶を失ったと言っても、信じてくれるだろうか?

「花さんっ!!!」

隈の目立つ忍たまの隣に座っていた女の子がガバッと花に抱きついてきた。一瞬見えたその目が涙で濡れていたのは、気のせいだろうか…

「良かった…帰ってきてくれて…!!また会えた…良かった…!」
「それにしても酷い怪我だ…花、今まで何してたの?」
「何も言わないで、10日間もどこに行ってたんだよ!?」
「………もそ…(髪が短くなってる)」

質問には答えず、花は光から一旦離れ、第一に伝えるべきことを伝えた。

「記憶…喪失……」

シン…と静まり返る部屋。

「お、覚えて…ないのか…?学園のことも…みんなのことも……全部?」
「……ごめんなさい」

衝撃で、みんなの表情が固まる。花は、誰とも目を合わせられなかった。
まだ名前も知らない人たちなのに、この人たちの悲しむ表情を見るのは嫌だ、と感じた。

「おかえり」

光が再び花を抱きしめた。

「おかえりなさい」
「…!」

不思議だな。そう言われると、とても安心する。

「記憶がなくても、私たちのことを忘れてても、花さんは花さんだもの。
きっとそのうち思い出します。思い出せなくても、今日からまた新しい思い出を作っていけばいいんです」
「……そうだよね。こうして帰ってきてくれたのも、きっと僕たちが何かで繋がっているのかもしれないし」
「そうだな! ちなみに花は私の彼女だったんだぞ!だからチューしよう!」
「小平太!記憶を改竄しようとするな!!」
「………もそ(セクハラ厳禁)……」

やいのやいのと騒ぐ面々を見て、自然と花は笑みを浮かべていた。

「ただいま」

私にも帰る場所があったのだと、嬉しそうに。


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