27
目を開けると、見慣れない天井が目に入った。
花はふとんに寝かされていた。
開け放った窓の向こうから波の打ち寄せる音と潮の香りがして、ここは海の目の前なんだとわかった。空は、夜明け前の薄い青だ。

「(ここは…?)」

花は起き上がろうとしたが、全身が痛んで、すぐには上体を起こせなかった。体中が包帯や湿布だらけで、薬の匂いが鼻をつく。

花は周りを見回す。その部屋には家具などが何も無く、花のふとんの周りに薬や包帯が置いてあるだけだった。

ここはどこだろう?
私はどうしてここに…?

いや、それ以前に……

花は必死に考えたが、何も浮かんではこなかった。体中は痛むのに、頭だけは不自然なほど軽い。

「お、起きたか」

隣の部屋から一人の男が入ってきた。鉢巻きに濃い髭、ホクロが特徴的な…

「第三協栄丸だよ。前に何回か会ったよな」

第三協栄丸は花のそばに胡座をかいて座った。

「花ちゃん、3日も眠ってたんだぞ。
いやー、しかし驚いたな。鬼蜘蛛丸たちが、海岸に人が倒れてるっていうから見に行ったら、花ちゃんが傷だらけで倒れてて…」
「……名前…」
「ん?」
「どうして…名前、知ってるの?」
「そりゃあ知ってるさ。たまに、一年は組と一緒に遊びに来てただろう?」
「一年…は組?」

花はきょとんとする。何かがおかしい。

「何言ってるんだよ、ほら忍術学園の」
「? 忍術…?」

花の表情は変わらない。第三協栄丸の顔から笑顔が消える。

まさか……

「花ちゃん…俺のこと、わかるか?」

花は申し訳なさそうに首を横に振る。

「忍術学園も…みんなのことも…?」

視線を下に向けたまま、花は何も答えない。

「(そんな……)」

ゆっくりと朝日が昇り、二人を照らした。
花の髪がキラキラと輝く。しかしその髪は、流れるような長髪ではなくなっていた。肩に届くか届かないか程度の長さで、あちこち焦げている。
花は全身に火傷を負っていた。炎を全身に浴びて、そのときに燃えてしまったようだ。

花の枕元には、青い髪留めが1つだけ置いてあった。気を失っていたにも関わらず、花がしっかりと手に握っていたものだ。

何があったのかはわからないが、何か大きな戦いに巻き込まれ、花が大切な何かを失ってしまったことはわかった。

***

「記憶喪失!!?」
「シーッ、声が大きい!」

思わず叫んだ乱太郎は、パッと両手で口を塞いだ。

第三協栄丸からの連絡を受け、乱太郎、きり丸、しんべヱ、土井先生、そしてタカ丸が兵庫水軍の元へやって来た。タカ丸は元髪結いとのことで、花の髪を整えるために呼ばれた。
海岸で、花はタカ丸に散髪をしてもらっている。

「記憶喪失って…本当なんですか?」
「腕の良い医者に診てもらって、そう言っていたから恐らく…
人間の悩には、思い出を記憶する部分と知識を記憶する部分がある、らしい。花は、思い出の記憶を失くしたみたいなんだ」
「???」
「先生、しんべヱの目が離れてます」
「つまり、花には思い出が無いんだよ。私たちのことも、忍術学園のことも忘れちゃったということだ」

土井先生が呆れて補足説明をする。

「記憶を取り戻すことはできないの?」
「記憶喪失なんて滅多に起こらないことだから、医者にもわからないそうだ」

沈黙が流れる。そこへ、花とタカ丸が入ってきた。花は松葉杖をついている。

「終わりましたよ〜」

花の髪は、肩より少し短いところで揃えられている(いわゆるボブ)。

「花先輩、可愛いです!」
「そ、そうかな…?」

照れて笑う花。しかし、その笑顔が、前とは少し違うものに見えるのは気のせいだろうか?


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -