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ポタ、ポタ、と血が滴り落ちて、小さな血溜まりを作る。

夜太郎は驚きで目を見開いていた。刀を引っ張るが、ビクともしない。

「(こいつ…!)」

花の右手が、刃を握りしめていた。

まだ、終われない

花は夜太郎の手から刀をもぎ取り、投げ捨てた。

まだ、終わるわけにはいかない

花はゆっくりと立ち上がる。右手からは血がだらだらと流れた。

失うわけにはいかない

もう奪われるわけにはいかない…!

花の脳裏に、みんなの、そして文次郎の笑顔が浮かんだ。

「放て!」

突然周りの兵が火矢を放ってきた。もちろん花に向けて。
花は間一髪で避けたが、背後の木に火矢が刺さり、森が燃える。

「あ…っ」

轟々と燃え盛る炎。嫌でも思い出してしまう…故郷のことを。
大切なものを失った、あの夜のことを。

もう自分を守ってくれる人はいない

でも、今は違う
あの時の私とは違う

今度は、私が守る番
今の私には、守れる力があるから

そのためなら、私は………

「後ろは火の森、前は死の滝…もう逃げ道は無くなった。降参するなら今のうちだぞ?」
「それはこっちの台詞」

もう、逃げないよ

苦無や手裏剣の投げ合いになり、そのうえさっきまで大人しかった兵たちが花に向けて火矢や火繩銃を撃ってくる。苦無、手裏剣、火矢、銃弾…それらが一斉に飛んできたら、全てを避けきることはできない。
さらに後ろでは燃えた木々が倒れ、徐々に足場を狭くしていた。

早く決着をつけなければ……

それは、一瞬だった。
夜太郎はいつの間にか刀を拾い、一瞬にして花の目の前に移動した。

「悪く思うなよ」

刀がギラリと光る。

閃光が走り、花の左肩から血が吹き出た。視界が真っ赤に染まる。
右手で肩を押さえ、花は膝をついた。

「(ま、ずい……!)」

ギリ、と歯を食いしばる。

「……まだ倒れないか」

夜太郎は再び刀を振り上げる。

「……!」

そのとき大きな地響きが聞こえてきて、同時に地面が振動する。

「なんだ…?」
「! う、上!」

山の斜面を、いくつもの大きな岩が真っ直ぐこちらに転がり落ちてくる。

「全員、逃げ…!」

夜太郎が言葉を切る。

「(…逃げ場は、ない)」

燃える森、下は滝と激しい川の流れ。どちらも助かる確率は低い。

「(終わるのかな)」

岩に押し潰されて圧死だなんて、呆気ないな…

兵たちは一縷の望みを賭け、滝に飛び込んだ。

私も飛び込んでみようか
そうすれば或は助かるかもしれない

でも、駄目だ
もう逃げないって決めたから

巨大な岩が目の前に迫っていた。
花はゆっくりと目を閉じた。



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