23
ザザザ、と夜の森を駆ける

「(静か…)」

地図に示された場所に着いた。そこは後ろが崖になっていて、大きな滝が流れている。下の川の流れは速く、もし落ちたら自力では抜け出せないだろう。

花は木の枝に座り、様子を伺った。
ツキヨタケ軍は、軍と呼ぶにはあまりにも少なかった。

「(10、20…ざっと見ただけでも30人くらいしかいない…)」

軍を率いているのは若い忍者だった。

「(どの兵も軽装だし…本当に忍術学園と戦うつもりなの…?)」

それとも、忍術学園なんてたったこれだけで簡単に倒せるということだろうか?

満月が雲に隠れた。
花は若頭に向かって手裏剣を投げる。若頭はクナイで手裏剣を弾いた。

「誰だ?」

花は木から降り、クナイを握りしめる。雲から顔を出した満月が、花を照らした。

「こんばんは」

周りの兵が若頭を囲い、刀やクナイを花に向けた。

「下がってろ、ここは俺がやる」

命を受けた兵はおとなしく下がり、若頭が前へ一歩進み出た。

「忍術学園の忍者だな。俺は月島夜太郎だ、よろしくな」

端正な顔立ちの夜太郎は、クナイをクルッと回した。その髪は、夜空と同じ紺色だ。
夜太郎は爽やかな笑顔を見せた。その笑顔は誰かに似ているような気がした。

「お出迎えにしては少なくないか? あんまり歓迎されてないみたいだな」
「招待した覚えはないけど?」
「まさかお前一人で俺たち全員を倒すのか?」
「だとしたら?」
「困ったな。俺、女の子を殴る趣味はないんだが」

夜太郎から攻撃を仕掛けてくる気配はない。
ならば、こちらから。
花は素早い動きで手裏剣を投げた。

「おっと」

夜太郎はひょいと避ける。その隙に花が夜太郎の懐に入り込み、回し蹴りを入れる。
しかし夜太郎はそれさえも避け、後ろ手で手裏剣を投げてきた。

「…ッ」

ブシュッという音と共に、手裏剣が花の頬を切った。

「殴れないくせに、女の子の顔を切り刻むことはできるんだ?」
「勘弁しろよ」

花は頬から流れる血を拭った。
それから何度も攻めるが、夜太郎は槍一本でそれを全て防いだ。そして時々隙を見ては手裏剣やクナイを投げてくる。花の傷は増える一方だ。

「(このままじゃ…無駄に体力を消耗するだけだ)」

花はもう一度夜太郎に向かって蹴りを入れる。夜太郎は槍で花の足を受け止める。

今だ

花は刀を抜き、槍ごと真っ二つに切った。

「なっ…」

不意をつかれ、夜太郎の肩から血が吹き出る。

「(刀は得意じゃないけど…)」

夜太郎も刀を抜き、二人は剣を交える。

ガキン、キン、と刀のぶつかる音が響く。しかし、刀の苦手な花に対して刀は得意らしい夜太郎。花は腕やら肩やらに切り傷を増やしていく。

ガキィン、と一際大きな音がして、花の手から刀が飛ばされてしまった。同時に足を掬われ、花は仰向けに倒れた。
その喉元に、夜太郎が刀を突き付ける。鍛練で負った傷も開き、真っ赤な鮮血がじわりと広がる。

「………終わりだな」

満月を背に、夜太郎が花を見下ろす。
刀の先端が花の喉に触れる。

夜太郎の腕に力が入り、そして…

ブシュッ

赤い血が弾け飛び、刀を真っ赤に染めた


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