20
次の日から、花は鍛練をより厳しいものに変えた。
ツキヨタケ忍者を倒すには、今よりももっと強くならなければ…

昨日の夜、土井先生と山田先生と花は学園長に全てを話し、指示を仰いだ。学園長は「花がそう言うなら、花に行かせる」と言ってくれた。ただし、条件付きだった。

"ツキヨタケ忍者を倒し、忍術学園に戻ってくること"

死ぬな、ということだ。
忍者は何があっても生き残らなければならない。
そのためにも、強くならなくちゃ…

「(正直、勝てる気がしない)」

ツキヨタケ忍者は未知数だ。
どんな術を得意とするのか、さすがの利吉でもそこまでは情報を得られなかったようだ。

それに、花にとってツキヨタケは親の、故郷の仇でもあった。
誰になんと言われようと、花は戦いたかった。

過激な鍛練に伴い、花はまた怪我が増え、伊作の怒りを買った。

「……………」
「……………」

伊作の無言の圧力(プレッシャー)。花はずっと俯いていた(目合わせられない…!)。

「花、何度言ったらわかるの?鍛練で怪我してたら、いざという時に困るよ」
「はい…」

ぺたぺたと薬を塗られながら、花は小さく呟いた。

「でも…もう、時間が…」
「ん?何?」
「ううん、なんでもない」

もう、時間がない……

「花、いるか?」
「土井先生」
「話がある。来なさい」

土井先生と職員室に行くと、山田先生もいた。

「場所がわかった」

山田先生が唐突に言った。

「一週間後の夜、奴らは恐らくこの辺りにいる」

地図に示された場所は、裏々山の更に奥。崖になっていて、大きな滝が流れている。

「移動距離や日数から計算すると、奴らはここで夜営する可能性が高い。一週間後の夜は、ここに行け」
「わかりました」

花は地図を受け取った。

「話は以上だ。それから…少しは体を休めた方がいいぞ」

ボロボロの花を見て、先生が付け足した。
失礼します、と言って花は職員室を出た。部屋に着くと、突然声をかけられた。

「"奴ら"とは、ツキヨタケのことか?」
「!!」

仙蔵だった。

「な、なんで」
「たまたま会話が聞こえてな。一週間後の夜、だったか?」
「………」

聞かれたのなら、仕方ないか。花は全てを話した。

「……それから、これはまだ誰にも話してないんだけど」

光はツキヨタケのくノ一で姫君である、と。

「光が…?」
「うん。私が見たり聞いたりしたことをまとめて考えると、そうとしか…
あの…仙蔵、これは絶対に誰にも言わないで。とくに、文次郎には」
「わかっている」

仙蔵は短く答え、二人の間に沈黙が流れる。

「どうして行くと言った?お前が奴らのところに行ったところで、一瞬で殺されて終わりだぞ」
「わかってる…勝てるとは思ってない。ただ、奴らを倒せればいい。奴らを学園まで行かせはしない」
「勝てはしないのに、奴らを倒す…? お前、まさか…!」

花は微笑んだ。

「このことは絶対に内緒だよ。光ちゃん本人にも」
「光は何も知らないのか?」

花は頷く。

「知らなくていいの」

知る必要はない。

「知らないままでいい」

何も知らなくていいから。
二人にはずっと、笑っていてほしい。


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