03
9月1日。
カレンは早々に目が覚めた。まだ5時40分だった。
開け放った窓から、一羽の黒いふくろうが入ってきた。
「おかえり、セサミ」
母にプレゼントされたふくろうは、セサミと名付けられた。黒いのでペッパー(胡椒)と迷ったが、セサミ(胡麻)の方が発音が可愛らしいのでそれに決まった。センスの有無は問わないことにしよう。
セサミはすぐに鳥籠に戻り、自分の羽に顔を埋めて眠り始めた。
カレンは二度寝する気にはなれず、本棚から一冊のアルバムを取り出した。そのアルバムには、幼いカレンや両親の若い頃の写真が貼ってあった。
その中の一枚に、赤ん坊のカレンが父に抱かれている写真がある。10年前の10月20日に撮られた写真だ。
この一週間後に、父は殺された。ヴォルデモートに。
覚えている。その瞬間を。私と母を守り、命を落とした父の姿を、私は今でも覚えている。父の死ぬ瞬間を。
緑色の閃光と、甲高い笑い声を……
カレンはアルバムを閉じて本棚に戻した。シンシアがキッチンで動く音を聞き、カレンは自分の部屋を出てキッチンに向かった。
カレンの家は海の近くにある。白を基調とした小さめの家で、庭には色とりどりの花が咲き乱れている。家の周辺は草地で、民家が所々にぽつぽつと見える。ずばり言うと、田舎だ。
キングズ・クロス駅までは車で行くことになっていた。カレンとシンシアは早めに家を出た。
10時30分、二人は駅に着き、荷物とふくろうを乗せたカートを押して歩きながら、カレンはシンシアに聞いた。
「93/4番線って本当にあるの?」
「もちろんよ。9番線と10番線の間……ここよ」
シンシアが指したのは柱だった。
「………柱だよ?」
「この向こうにあるのよ、93/4番線が」
半信半疑で、カレンは言われたままに柱に向かって歩いた。しかしカートが柱にぶつかることはなく、その向こうにある世界へするりと入っていけた。紅色の蒸気機関車がプラットホームに停車している。
「ホグワーツ行き特急、11時発…これだ」
「ああ、懐かしいわ。何年ぶりかしら」
カレンのすぐ後ろにシンシアが現れた。二人が空いているコンパートメントを探して歩いていると、見覚えのある顔が前方にいた。黒い髪で眼鏡をかけた少年…たしかハリーという名前だ。
「ハリー、おはよう」
「あっ、カレン!」
カレンの姿を見ると、ハリーは嬉しそうな顔をした。
「ハリー…?」
シンシアはじっとハリーの顔を見つめた。
「ハリー・ポッターね?」
ハリーが頷くと、シンシアは目を潤ませた。
「ジェームズにそっくりだわ…でも、目だけはリリーの目なのね……会えて嬉しいわ」
今は亡き友の息子に会えて、シンシアはとても喜んだ。
カレンとハリーは同じコンパートメントに座ることにした。
「いってらっしゃい」
シンシアがカレンを抱きしめた。
「これから、あなたには素敵な日々が待っているわ。毎日を大切にしてね」
「うん。いってきます、お母さん」
「さあ、ハリーも」
ハリーは照れ臭そうに、それでも嬉しそうにシンシアとハグをした。
汽車が動き出し、カレンとハリーは、シンシアの姿が見えなくなるまで手を振っていた。
「ハリーって、あのハリー・ポッターだったんだね」
「今気付いたの?」
「うん、全然気付かなかった。あ、本当に傷痕がある」
びっくりした、と笑うカレンを、ハリーは不思議そうに見つめた。
二人で話しているとコンパートメントのドアが開き、一人の少年が顔を覗かせた。赤毛にそばかす、背の高い少年だった。
「あの…ここ、いい?他に空いてなくて」
「いいよ」
二人が承諾すると、少年は笑顔になってハリーの隣に座った。
「僕、ロン・ウィーズリーっていうんだ」
「私はカレン・ルーチェ。よろしく」
「僕ハリー。ハリー・ポッター」
その名前を聞くとロンは目を丸くした。
「(…普通はこういう反応なのか)」
お昼頃、魔女のおばさんがカートを押してやって来た。カートにはたくさんのお菓子が乗っていた。カレンとハリーがお菓子をたくさん買い、三人で一緒に食べた。
「へー、カレンはずっと日本で暮らしてたんだ」
「日本ってどんなところ?」
「うーん…結構いい国だったよ。あ、ご飯が美味しかった」
コンパートメントのドアが開き、少女が入ってきた。ふさふさの栗色の髪の毛が特徴的だった。
「誰かヒキガエルを見なかった?ネビルのがいなくなったの」
「……見た?」
「僕は見てない」
「私も」
「そう……私、ハーマイオニー・グレンジャー。両親ともマグルなの」
「私はカレン・ルーチェ。よろしくね!」
カレンがにっこり笑うと、ハーマイオニーは顔を赤くしてふるふると震え始めた。
「あ、あの…ハーマイオニー…?」
「か、か、」
可愛いーっ、と叫んでハーマイオニーがカレンに抱きついた。
「な、なんて可愛いの…癒しだわ!」
「(すごい、熱烈な挨拶…)」
どうやらカレンの可愛さはハーマイオニーのツボにはまったらしい。
「ハーマイオニー、カレンが嫌がってるじゃないか。早く離れなよ」
「そんなことないわ。どこをどう見たらカレンが嫌がってるように見えるの?」
「わ、私、別に嫌がってなんか…」
「ほら!」
「カレンは優しいから本当のことが言えないんだよ」
「カレンは嘘をつくような子じゃないわ」
「君たちはカレンの何を知ってるの!?」
ロンの突っ込みが冴えた。(黒い)笑顔で対峙するハリーとハーマイオニーの間で、カレンは不思議そうに二人の顔を交互に見た。そのとき再びドアが開き、見覚えのあるプラチナ・ブロンドが現れた。
「ハリー・ポッターがいるっていうのは本当…」
「あれ、ドラコだ」
「カレン!? ま、まさかこんなところで会うなんて思ってなかったよ…」
「だって友達だから」
ドラコの目が、お菓子を頬一杯に頬張ってもぐもぐさせてるロンと、ドラコを見て明らかに不機嫌になったハーマイオニーを見た。
「友達?こいつらがかい?ウィーズリー家にマグル生まれじゃないか」
「それの何がいけないの?」
カレンは少しムッとした。
「こいつらは間違ってもスリザリンには入れないぞ」
「私だってスリザリンには入らない。用が無いなら早く出てって」
カレンはドラコの背中を押してコンパートメントの外に追い出した。
「カレンって…マルフォイと知り合いなの?」
「うん。でも私の友達を悪く言うのは許せない」
カレンはムッとしたままボスンと席に座った。
窓の外には、遠くにホグワーツが見えていた。
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