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ねぇ、ロベルト。
聞こえる?

私の声も、皆の想いも、
ロベルトの元へとちゃんと届いているかな。
届いているなら……嬉しいな。










「クロード、車を回せ。アルタリア城に向かう」

「はい。今直ぐ」




寒くはない?
風邪を引いたりはしていない?
暖かな場所で、ちゃんと暖かな格好をして眠れているのかな。
ロベルトの居る其処が、ロベルトにとって優しい世界でありますように。




「キース様!居所を掴みました!如何なさいますか?!」

「決まってるだろう!突っ込むぞ……!」




毎日ご飯は食べてる?
きっちり三食とはいかないまでも、ちゃんと何か口に出来る環境に居てくれたらと願うばかりだよ。
食べれる時にはしっかり食べて、どうか元気一杯に無茶して回る、いつものロベルトでありますように。




「グレン様……」

「ああ。あの厄介でお節介で、つくづくお人好しなロベルト王子の事だ。絶対に姿を見せる。……行くぞ、ユウ」




どうか、寂しい時には思い出して。
ロベルトの周りには、沢山の光がある事を。
道に迷わないように、
独りぼっちで迷子にならないようにって、
幾つもの優しい光が、いつだってロベルトの足元を照らしているから。




「成る程。姑息な手段を使ってくれたものだな。だが、あいつは舐める相手を間違えた」

「ジョシュア様……」

「今に後悔する事になるだろう。相手は……あのロベルト王子だ」




ねぇ、ロベルト。
何処に居ても届いて欲しい。
ロベルトの目や耳や、
胸の中に、
届いて欲しい沢山のものが此処にはあるよ。




「失礼。聞き捨てなりませんね。今、何と仰有られたのでしょう?」

「エドワード様、ここは一先ず穏便に……」

「ロベルト王子は私の親友です。彼を心無い言葉で侮辱した今の発言を直ぐに撤回し、謝罪していただきたい。そうでなければ……私は貴方を許さない!」




だから、いつでも帰って来てね。
「ただいま」って、ロベルトが戻って来てくれる日を、私はいつまででも待っているよ。
ロベルトの「ただいま」に、「おかえり」って言える日を、皆と一緒にいつまででも待っているから。

だから、
ねぇ、ロベルト。




「っ、嫌だよ…一人にしないで……ロベルトぉ……!」









ロベルトに、
早く会いたいよ―――――……。

















Beautiful―――1

――――――Roberto Button














審議の対象別に纏められた案件が、長テーブルに小冊子のように並ぶ。
それら小冊子が等間隔に置かれる様は、まるで映画館に並ぶパンフレットのように見えなくもないが、内容は至って似て非なる物だ。

ジョシュアはその一部を手に取ると、静かに目を通した。
書類の内容は、紙の薄さに反して実に重い。
たかが2時間足らずの審議で、これら幾つもの議案がスムーズに解決するとは到底思えない難問ばかりだ。

眉間に皺を深く寄せ、気難しい顔で書類を見詰めるジョシュア。
だが、ふと。
そんなジョシュアの視線が書面から離れた。
ジョシュアの目の前を「ふふ〜ん」と軽快なステップで横切る、アルタリア王国が王子、ロベルトの姿を捉えたからだ。




「あ、エドち〜ん。この間話してたやつだけど、あれって何処で買えるの?そうそ、美味しいってエドちんが言ってたシャルルで評判のドーナツ」




―――「ドーナツ」。
手にした書類の内容と、まるで正反対の単語がロベルトの口から飛び出した事で、ジョシュアの眉間がピクリと吊り上がった。




「国同士の今後の在り方を左右する真剣な話し合いの場で、こうも気楽でいられるとは全く以て理解出来んな」




ジョシュアは「はぁ」と呆れたように肩を落とすと、陽気に談笑するロベルトに向かって批難を口にした。
そんなジョシュアの独り言に賛成したのか、彼の隣の席に着くキースも、ロベルトに対する批難を口にする。




「ロベルト王子の場合、会議しに来てるんだか遊びに来てるんだかわからないよな」




そう言って、ジョシュアと同じく溜め息を吐くキースに、二人の対面の席に着くグレンも同意したのか後に続いた。




「あの人、いつになったら年相応の落ち着きが出来るようになるんですかね」




ロベルトが姿を見せるなり、どうだ。
重苦しい空気は、こうも簡単に真反対なものへと変わってしまう。
一介の使用人程度ならば、恐らく入室するのも躊躇うだろう厳粛な会議室も、彼が一度登場するや否や、まるで談話室のような雰囲気に様変わりしてしまうのだから不思議だ。

長テーブルに座る王子が三人、それぞれにロベルトに対して呆れ返る中、当の本人は今だエドワードを相手に他愛も無い会話を繰り広げている。




「年相応の前に、ロベルト王子の場合は立場相応が必要だろう?」

「況してや、今から6か国会議を始めようというのにドーナツがどうのこうのと……責任感も緊張感も感じられん」

「まぁ、責任感はともかく緊張感は無いでしょうね。なんせロベルト王子ですから」




会議室の右半分に漂う陽気な雰囲気と、左半分に漂うギスギスした雰囲気と。
一見して真っ二つな空気に包まれている会議室だが、彼等が集えば相変わらずな光景だったりする。
そして、この場に居合わせるウィルもまた、相変わらずな内の一人だろう。




「……俺は別に。むしろ、ロベルト王子が静かにしている方が返って気になると思うけど」




ジョシュアにキース、グレンと同じ長テーブルの席に着くウィルが、ぽそりと呟いた。
この達観したウィルの意見には、三人の王子達も「成る程」と納得した様子だ。




「確かに、そう言われてみるとそんなような気もするな……」

「ああ。ロベルト王子が無口で大人しくしてると思うと、確かに異様ではある」

「まぁ、それだけロベルト王子が普段から大人しくないって事なんですけどね」




長テーブルでの「ロベルトとは」談義も、一旦区切りがついたようだ。
染々と頷く三人の王子とウィルの元へ、ここで漸くロベルトとエドワードが合流した。




「あれ?皆して、どうしたの?真面目な顔しちゃって」

「何か真剣なお話でもされてらしたのでしょうか?」

「いや、どうでもいい話だ」

「だな。今から会議だってのに、ロベルト王子の事について話してたって仕方無いしな」

「ですね。ロベルト王子がどうだとか言った所で今に始まった事でもないですし」

「ええ?俺の話?でも、その割にはどうでもいいとか仕方無いとか、今更とか……何か皆酷くない?」




不満気たっぷりなロベルトを、エドワードが「まぁまぁ」と穏やかに宥める。
6人揃ったこのやり取りもまた、彼等の間では相変わらずの通常だ。




「失礼します。皆様お揃いになられたようですので、これより6か国会議を始めたいと思います」




賑やかな会話が飛び交う中、会議室にゼンが姿を見せると同時、王子達は一斉に席を立ち、姿勢を正した。
ノーブル公の登場である。




「王子達よ、遠い所よく来てくれた。さて、会議を始めるかの」




ノーブル公を中心として会議は始められた。
各国の王子達は改めて席に着くと、国交間の様々な問題について早速と議論に入る。
勿論、散々と王子達から緊張感だの責任感だのを軽視されていた、アルタリア王国の王子、ロベルトもだ。




「……という、これらの措置によって共通通貨への信頼を回復し、クルスを持続的に安定させる事が可能であるとドレスヴァンでは確信しております」

「ふむ。成る程のう……。この件について、他の王子達はどう思うかの?」

「そうですね。オリエンスとしては……」




真剣な話し合いが続けられる中、書類と向き合うエドワードの耳に小さなハミングが聴こえてきた。




「……ふふ〜ん♪」




エドワードの隣の席に着くロベルトが、ぱらりと資料を捲りながら呑気に鼻歌を歌っている。
「呑気に」と、
誰しもが思うだろう。
この真剣な話し合いの場に於てハミングを口遊む彼を、特にジョシュアやキースやグレンは呆れ返るに違いない。
だが、エドワードはロベルトの鼻歌を注意するでもなく、くすりと微笑んだ。




「……ロベルト王子の場合、明るい振る舞いに隠れて真実の姿が見え難くなっているだけですからね。本心は我々と同じく、いつだって真剣だ」

「ん?何が?エドちん、何か言った?」

「いいえ。何でもありませんよ」




きょとんとするロベルトに、エドワードはにっこりと微笑む。
エドワードの言葉に同意したのか、彼の隣に座るウィルもまた、ふっと微かな笑みをテーブルに落とした。




「……だね。会議が始まってからのロベルト王子、目が笑ってない」

「おや、ウィル王子もお気付きでしたか。ジョシュア王子達はああ言ってましたが、ロベルト王子はいつも会議では誰よりも真剣ですよね」

「ねえ、エドちんもウィルりんもさっきから何の話をしてるの?」

「何でもありませんよ」

「うん。何でもない話」

「え?俺だけ仲間外れなの?ちぇー……つまんない」




ぶうたれるロベルトを見詰めて微笑む、エドワードとウィルの温かな眼差し。
そして、国交間が抱える山積みの問題とに議論は過熱し、6か国会議は当初の予定時間を大幅にオーバーするまで続いたのだった。

一方その頃―――……。








「ほら、見てくださいな!今年のトマトは一段と赤味が強くて、フルーツのように甘いんですよ!」

「茉莉様、良かったらお城に持って行ってください!うちのトマトをロベルト様にも是非食べていただきたいんです!ささ、どうぞどうぞ!」

「……わ!こんなに……。いいんですか?」




茉莉の細腕にドサッと乗せられたのは、ずっしりと重い紙袋。
真っ赤なトマトが大量に詰められた紙袋に、茉莉は重心を持っていかれて足元をふらつかせた。
トマトだけでなく、あれもこれもと次々に野菜を手渡される茉莉は、店主夫婦の有り難い心遣いに嬉しくなるも、若干の苦笑いだ。




「愛されてるわね〜。茉莉ったら、もう十分プリンセスとして浸透してるじゃないの。貸して。半分持ってあげる」

「ありがとう、シンシア」




大荷物を抱え込む茉莉を見兼ねて、シンシアが助け船を出す。
シンシアが茉莉から受け取った紙袋にはオレンジやレモン、林檎がぎっしりと詰め込まれていて、これまた重い。






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