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「国を背負ってる者同士、話し合いは常に真剣だ。他国間なら尚更ね。手の内を探り合ったり、相手の出方を窺ったり……。意見が割れれば、それが発端で国家同士の争いにまで発展したって可笑しくはない。でも……」




バラ園に響き渡る、賑やかな喧噪。
先程までの穏やかな茶会から一変して騒々しいテーブルは、輸出入問題を議論しているのか、柿と牡蠣について議論しているのか最早わからない程だ。




「でも……皆、違う。寧ろストレートにぶつかってくる」

「ウィル様……」

「本来なら国家間に亀裂が走るレベルだと思う。それくらい昨日議論を交わしたのに、今日はもう同じテーブルに着いて皆でお茶をしてる。不思議だけど……俺は案外こういうのは嫌いじゃないかな」

「……はい」




ウィルの言葉を聞きながら、茉莉は再び彼等に視線を戻した。
目の前にいる彼等は普段と同じ調子で、とても昨日の会議で激しく言い争ったようには見えない。
それはまるで、凄く分かり難いが分かり易い、男同士の絆のようにも思える。




(友情っていうのとは、また少し違うのかな。例え喧嘩したとしても、それが原因で国同士の争いには発展しないっていう……。私なんかにはまだまだ分からない、皆だけの絆みたいなのがあるんだろうな……)




今日の茶会然り、口では何と言おうとも、プライベートでこうも頻繁に交流を持つ彼等は、決して6か国協定を結んでいるからだとかの理由だけではないのだろう。
分かり難い、
けれど、分かり易い。
一国を背負う者同士としての立場とは別に、彼等なりの独特な関係性があるのだろうと思えて、茉莉は一人微笑ましい想いに胸を温めた。




(今日は良い日だな。街の人達との繋がりとか、各国の皆さんとの繋がりとか……色んなロベルトの一面に改めて触れられたかも)




今日、既に何度目だろうか。
優しい想いに触れる度に、茉莉の胸はほっこりと温かくなった。
今だ騒々しい彼等に対して、隣に座るウィルが「でも煩いよね」と呟く。
そんな事も可笑しくて、茉莉はくすくすと笑みを溢した。




「だから、牡蠣はレモンとワインビネガーで食べるのが一番美味いだろう!」

「いや、牡蠣は殻ごとオーブンで焼いた調理法が一番美味い。そこは断じて譲れん!」

「あ、言われてみると確かに牡蠣のグラタンも美味しいよね〜」

「そうですね。シャルルでは牡蠣は前菜として生で頂く事が多いですが、他の調理法でも是非色々と味わってみたいですね」

「ですから皆さん、もう牡蠣から頭を離してくれませんか?一向に話が進まないので……」




脱線に脱線を繰り返した彼等の牡蠣談義は、まだまだ当分終わりそうにない。




「ねえ、皆。輸出入の話から、どうして調理法の話になったの?」

「ふふっ!」




その賑やかな輪に茉莉とウィルとが加わったなら、更に話は明後日の方向へと飛び火していく。




「つまり、あれだろ?貝は鮑が一番美味いって事だよな」

「何をふざけた事をぬかしているんだ、キース王子よ。貝はムール貝が一番美味いだろう。それについても断じて譲れん!」

「……俺は牡蠣かな」

「私もウィル王子と一緒ですね。やはり貝は牡蠣が一番美味しいと思うのですが、グレン王子は如何ですか?」

「俺ですか?俺は普通に帆立貝とかが好きですけど」

「俺、ロブスターが食べたーい」

「凄いね、ロベルト。この流れでいきなりロブスターが食べたくなったの?」




わいわい、がやがや。
6か国の王子達が揃えば、それがいつもの彼等だ。
時に言い合ったりもするけれど、決して仲違いはしない。
不思議だけれど、確かに6人を繋げる何かがある。
その絆はこれからも、きっと遠く先の未来まで続いていくものなのだろうと、この時の茉莉はそう思っていた。

この6か国の王子達の賑やかな声を、ずっと聞いていけるものだと―――……。















「冗談にも程がある!それ以上、口にしてみろ……王家に対する謀反と捉えるぞ!」




室内に響き渡る怒声。
バンッ!と叩かれた机の音が、国王の怒りが相当な事を伝えている。
そして、本来ならば立場を弁え、絶対に口出しすらしないアルベルトですら、珍しく感情に任せて発言をしている。




「笑えない冗談です。冗談にするにも、貴方のような素晴らしい方が口にするには大変遺憾に思う発言かと……ベラルーシ様」




必死に感情を堪えているのか、アルベルトの形相が険しく強張る。
国王の手は怒りにわなわなと震え、机に叩き付けた拳はそのまま解かれもしない。




「貴様は今、私やロベルトだけでなく王妃をも侮辱したのだ!言え!何を根拠に、そのようなふざけた戯れ言を口にしたのだ!」




バンッ!、
机が二度目の悲鳴を上げる。
室内は穏やかな一時から一変して、異様とも言える険悪な雰囲気に包まれていた。
それと言うのも、アルタリア王国の官房長官、ベラルーシの発言によるものだ。
突然アルタリア城を訪ねて来たベラルーシが発した言葉に、日頃温厚な国王が激怒し、優秀な執事である筈のアルベルトが口を挟む事態となっている。




「私の事なら構わん。貴様が私に対して何をどう思おうが許そう。だが、ロベルトと王妃を侮辱する事だけは許さんぞ、ベラルーシ!」




この城に仕える者で、果たして今まで誰が国王の怒声を耳にした事があるだろうか。
否、誰もいないだろう。
長く仕えるアルベルトですら、これ程までに激昂した国王を見た事は無い。
同じく、アルベルト自身もここまで誰かに対して激情を抱いた事は無いだろう。




「お気持ちは分かりますが、事実でございます」

「何だと?よく私にそれを口に出来るな……謀反の罪で牢に容れられたいか、ベラルーシよ!」

「例え国王様であっても、神であっても、真実を訴える者を罪には問えません。私の話が真実である事は、こちらが全て証明しております」

「何……?」




ベラルーシは懐から一通の封書を取り出すと、国王の前にそれを差し出した。
室内を張り詰める空気は重く、次に国王の逆鱗に触れでもしたなら切れてしまうのではないかと思う程、空気は細く尖っている。
そんな雰囲気の中でベラルーシが出してきた封書は薄く、厚さは幾らも無い。
言い替えれば、激怒する国王を一瞬で説き伏せるに十分な程、その薄い封書は「真実」だった。




「……DNA鑑定書?」




封を切り、取り出した書類に目を通した国王の瞳が酷く見開かれた。
絶句し、肩を震わせる国王の様子は異常で、緊急の事態と察したアルベルトは直ぐ様国王の傍らまで駆け寄った。




「国王様、何処かご気分でも……?!」

「な……何という事だ……」

「……国王様?」




傍らに立ち、国王の両肩を支えるアルベルトの視線が封書の中身を捉える。
捉えて、そして目を疑った。
国王が手にする書類、
そこに記載された事実に、アルベルトの目が大きく見開かれる。




「……馬鹿な……そんな筈が………」




それは―――……、




「国王様、これが真実なのです。ロベルト様は……国王様と王妃様の実子ではございません」










光を遮るように、
突如として舞い降りてきた暗闇。
目映い陽の光を奪う、漆黒の「リアル」だった。

















next―――.3



20140919





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