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「私は皆でケーキを食べれて嬉しかったけどな。こういう言い方は違うかもしれないけど、国王様もいてアルベルトさんもいて、シンシアもいて……。皆でダイニングに集まって一つの物を食べてる事が嬉しかったよ。家族になれたみたいで」

「え……?」




茉莉はベッドの縁で絨毯に膝まずくと、横たわるロベルトの顔を覗き込んだ。
ベッドに寄り掛かるように交差させた腕に顎を乗せて、茉莉はロベルトを間近に見詰めながらくすりと微笑む。




「婚約してからはロベルトも私も忙しかったし、国王様と一緒に食事だって摂れなかったでしょう?だから、ああやって皆でダイニングに揃って会話を楽しむっていう事だけでも嬉しかったの」

「茉莉……」

「アルベルトさんとシンシアは家族とは違うけれど、でも私にとってはロベルトの事を小さい頃から良く知る二人だから。大切に想える人達には変わりないし、ロベルトと国王様と皆でケーキを囲んで笑うって事が……当たり前の事なのかもしれないけど、凄く嬉しかったんだよ」




過ぎた一時を振り返り、茉莉が本当に嬉しそうに微笑っている。
彼女の想いと言葉を受けて、ロベルトは胸をきゅうっと愛しく締め付けさせた。
そう、茉莉が話してくれた想いは、正に在りし日の家族の姿と同じだったからだ。




「……一緒」

「え?」

「前にもさ、今日みたいな日があったんだ。母さんがケーキを焼いてくれて、ダイニングで皆で食べたよ」

「王妃様が?」

「遊びに来ていたシンシアも一緒だったし、その頃はまだ教育係だったアルも一緒だった。沢山作り過ぎちゃったからって、母さんが皆をどんどん呼んじゃってさ。最終的には城中の使用人も皆集めて、全員でケーキを食べたんだ」

「そんな事があったんだ……」

「うん。その時に母さんが言ってたんだ。料理は家族皆で食べるから美味しいんだって。母さんにとってはシンシアもアルも、この城に住む皆も全員が家族だったから」




そう言うと、ロベルトは茉莉の頬に指先をそっと伸ばした。
慈しむように茉莉の頬を指で一撫でして、そうして、グイッと―――……。




「……きゃっ!」




ロベルトは茉莉の腕をグイッと引き寄せると、その身体をベッドの上に引っ張りあげた。
不意打ちの行動に驚くより先に、茉莉の身体はすっぽりとロベルトの腕の中だ。
彼の抱擁はぎゅうっと強く、何処か甘えているようにも感じられる。




「……ロベルト?」

「茉莉も母さんと同じように思ってくれてたんだって思うと、俺ってば恥ずかしいよね。茉莉のケーキを独り占め出来なかったからって、ずっと拗ねちゃってたし……」

「ふふっ!恥ずかしいだなんて、そんな風に思わなくても……」

「うん。でも……茉莉はもう家族だよ?」

「え?」




背中に回されていたロベルトの腕がふっと弛む。
「?」と彼の顔を見上げるより先に、コツンと額に落とされる柔らかな衝撃。
ロベルトは茉莉の額に自身の額を押し当てると、瞳を細めて微笑んだ。




「式はまだでも、俺にとっても父さんにとっても、茉莉はもう家族だから。一つ屋根の下で一緒に食事をして、笑って……皆でケーキを食べる。そういう細やかな幸せを一番に母さんは大切にしてた」

「ロベルト……」

「きっと父さんも俺と同じように想ったと思う。ダイニングを出る時、これからは食事の時間を一緒に取れるように、もっと時間を配分するって言ってたから」




ロベルトが額を押し当てたまま、茉莉の瞳を見詰める。
真っ直ぐに、柔らかくて温かな眼差しのそれで。




「おはようって言って笑い合って、いただきますって言っても笑い合って、おやすみって言ったらベッドで幸せな夢を見て笑ってるような……そんな温かい家族になろう?いつか出会える、俺と茉莉の子供と、父さんと皆でさ」

「ロベルト……」

「毎日、笑い過ぎて喉がカラカラになっちゃうような、そんな家族になろう。何十年経っても変わらずに、今日みたいに大勢でケーキを囲むような……」

「……うん」

「そんな家族になっていこう。いつか、理想を飛び越しちゃうくらいに幸せな家族に。俺と……」




……―――「そうだね」。
そう返事を口にしようとする前に、温かな唇に声を塞がれてしまった。
優しく落とされた唇は、言葉では伝え切れない想いを心まで届けてくれるような、そんなキスだ。




「ん、……ロベルト……」




愛しい人の口から改めて語られた未来予想図を、茉莉は閉じた瞼の裏側でそっと思い描いた。
そんな未来が訪れたなら嬉しい。
愛しい。
なんて幸せなのだろうと、脳裏に描いただけでも泣きそうになる、近い未来の姿。




「茉莉、大好き……」

「私も……ロベルトが大好きだよ」




キスを1回、
またキスを1回2回と、何度も唇を重ねては、合間合間に想いを語り合う。
そんな風にロベルトの腕の中で優しく流れる時間に浸っていたなら―――…、するり。




「……え?」

「んー……茉莉、大好き」

「ちょっとロベルト……手」

「ん〜?」

「ん〜?じゃなくて…っ…」




するり、と。
茉莉のスカートの裾を捲ったロベルトの手が、太腿を撫でるお痛をしている。
ロベルトの手はするすると茉莉の太腿を撫でながら、スカートの裾を更に上へと捲り上げていく。
徐々に糖度を増すキスが意味しているように、先の展開を予想させるロベルトの手付きに、茉莉は頬を赤らめて訴えた。




「ロベルト待って、私まだシャワーだって浴びてないのに……」

「気にしない、気にしない」

「それに、ロベルトだって今日は会議があって疲れてるんじゃ…っ…」

「へーき、へーき」

「んもう!ちゃんと私の話を真面目に聞いてる?」

「勿論、ちゃんと聞いてるよ?真面目も真面目、大真面目だって。だから真面目に今すっごく茉莉とイチャイチャしたいんだけど……ダメ?」

「だ、駄目って訳でも……。それに、真面目なイチャイチャって一体どんな……」

「じゃあ、OK?」

「2択なの?!」

「茉莉が嫌なら止めるけど、でも俺としてはこのままノンストップで茉莉と朝までイチャイチャしたいな〜…なんて」

「そ、そんな仔犬のような目で見詰められると……」




仔犬のように甘えた眼差しを送っているくせに、同時に茉莉の照れる素振りを堪能している。
ロベルトの瞳は何処かそんな色をしていて愉し気だ。




「でも、……んっ!」




お喋りは後で、今はキスをしよう。
まるで、そう言っているかのような熱い唇が茉莉の発声を奪う。
甘くて深いロベルトの舌に咥内を蹂躙されて、照れ隠しから来る茉莉の嫌々などは、もう明後日の方向まで飛んでいた。




「ぁ、ロベルト……」

「茉莉、大好きだよ。大好き……」




ロベルトの膝が横たわる茉莉の両足を割る。
キスはキスを越えて唇への愛撫に変わり、彼の掌は更にスカートの奥へ。




(ロベルトとこのまま、これから先もずっと……幸せな毎日を過ごしていけますように……)




愛しい人の匂いと温もりに包まれながら、閉じかけた瞼の向こうに見る月明かり。
室内に青白く差し込む光は筋を作り、絨毯に月溜まりを生んでいた。
満月までは、あと数日。
少し端の欠けた月がアルタリア城を優しく照らす、そんな夜。
茉莉とロベルトがベッドにその身を深く沈めた、丁度その頃―――……。

アルタリア城の正門前に、一台のリムジンが停車していた。




「近くで見るのは初めてだけど……案外悪くないね」




正門を前に、一人の青年がアルタリア城を見上げている。
青年は城の外観を端から端まで眺めた後で、ふっと目元を細めた。
目映い光に目を眩ませたような、そんな仕草で。
するとその時、青年の背後で停車するリムジンから、もう一人別の男性が降りてきた。
男性は青年の傍らで足を止めると、一拍の間を空けた後で静かに口を開いた。




「今はまだ長居する時ではありません。衛兵に目を付けられる前に戻りましょう」




後部座席から降りてきたその男性は、青年に短くそれだけを告げて、再びリムジンへと戻って行く。
だが、青年は直ぐに戻って来そうにも無い。
男性は青年の心中を察しているのか、再び一拍の間を空けた上で催促を続けた。




「さあ。参りましょう。今夜は風が強い。お身体を冷やして何か差し支えがあってはなりませんから」

「うん。今、行くよ」




ドアを開き、男性が青年に乗車を促す。
男性の催促に口では返答しながらも、青年はまだアルタリア城から目を離せないままでいた。
何か思う所でもあるのか、青年の瞳はジッと城を見詰めている。




「アルタリア城……か」




夜風に乗り、青年の呟きは静かに月明かりの中へと消えていく。
照明に照らされて浮かび上がるアルタリア城は雄大で、夜の闇の中でも悠然と其処に在る。




「また直ぐに戻って来ます。貴方が本来居るべき場所は他の何処でもない。この城なのですから……ロベルト様」




……―――「ロベルト」と。




「さあ、参りますよ」

「……ああ。もう行くよ」




そう名を呼ばれた青年は、男性と共にリムジンに乗車をした。
二人を乗せてゆっくりと走り出した車は、アルタリア城を後に、暗闇の中を真っ直ぐに行く。

青白く輝く、月明かりのヴェールを切り裂くようにして―――……。















next/Beautiful―――2

20140912





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