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茉莉の発言を待つ間、波の音がやたらと煩く耳に響いた。
波の音だけでなく、そこに鼓動の音も上乗せされているからか、余計に煩く感じてしまう。
どっどっと胸を叩く心臓がそろそろ破裂するんじゃないかと、テオがぎゅっと下唇を噛んだ時。
……―――とんっ、と。




「……え?」




テオの首に回される、柔らかく華奢な茉莉の腕。
茉莉はテオの胸に飛び込むと、彼にぎゅうっとしがみ付いた。




「私もテオ君の事、大好き……!」

「茉莉……って、うわ?!」

「きゃあ?!」




茉莉がテオに抱き着いた直後。
勢い余ったのか、海水に濡れた足場に足を取られて、二人はそのまま仲良く後方へと倒れ込んでしまう。
倒れた先は、洞窟内に出来た潮溜まり。
当然、二人はそこへばしゃーん!と―――……。




「冷た……!アンタ、どんだけ勢い良く抱き着くんだよ?!」

「ご、ごめ……!」




潮溜まりに尻餅を着いたテオは散々な結果だが、彼の身体を下敷きにした茉莉は、多少衣服が濡れた程度で済んだようだ。
跳ね返った海水を頭から浴びてしまったテオはびっしょりと濡れていて、変わり果てた彼の姿に茉莉はサアッと青褪めた。




「テオ君、怪我は?!大丈夫?!」

「……ん。怪我は無いけど、これ……帰ったら速攻でシャワーだな」

「ごめんね!本当にごめんなさ……!」




そんな風に、
おろおろと焦りながら、泣きそうな顔で機嫌を窺いにくる茉莉の様子が可笑しくて。




「別にいいよ。今はこれで勘弁してやる」

「え……」




テオは堪らず笑みを溢すと、茉莉の腕を自身に向かってグイッと引き寄せた。




「俺にもくれる?茉莉との思い出」

「テオく……」






恋して、諦めて。
諦めたけれど諦め切れなくて、恋して恋して恋した彼女との初めてのキスは、塩辛くて。
それも何だか「らしいな」と、テオはまた笑みを溢すのだった。
















ただ今、夏真っ盛り。




「キース王子よ、いいか……勝負だ!」

「上等だ。俺が一番にフラッグを取ってやる!」

「キーちゃん、ジョシュアく〜ん。準備はいい?いっくよー…位置に着いて!」




ビーチフラッグを楽しむも良し。
それを傍らで観戦するのも良し。




「何やらこの島には歴史的にも貴重な遺産が遺されているようですよ。浜辺を行けば見えてくるそうですが、案内を頼んだので宜しければグレン王子も一緒にどうです?」

「ああ、いいですね。ウィル王子も行きますか?」

「俺は部屋で本でも読んでるから、二人でどうぞ?」

「ウィル王子は相変わらず海が苦手なのですね」




浜辺を歩いて観光するのも良し、部屋で涼んでも良し。
兎に角、夏は夏というだけで全て良しなのだ。




「よ〜い、スタート!」

「フラッグ、取ったり!」

「誰がさせるか!」




気温が上がれば気分も上がる。
陽射しが強く照り付ければ、肌も熱く火照る。
それこそが夏。
ごちゃごちゃとした細かなあれそれは関係無い。
ただシンプルに、この季節を味方に付けた者が夏を制する。




「よくこの暑い中、あんなに動いてられるよな。ビーチバレーの次はビーチフラッグとか、普通バテるだろ?」

「口を動かす前に手を動かしたらどうなんだ?テオ、お前は茉莉様にこちらの紅茶をお持ちするんだ」

「はいはい」

「返事は……」

「一回だって言いたいんだろ?分かってるよ」

「全く、口の減らない……」




此処は常夏の島、南の国のパラダイス。
けれど、夏を前にしたなら場所は此処だって其処だって、何処だろうと構わない。




「あ、テオ君!」

「茉莉様、紅茶をお持ちしました……って、何をしてるんだ?」

「見て見て、ほら……じゃんっ。ヤドカリ!」

「アンタはまたそんな事やってんのか……」




気温が上昇するのと同じだけ、体温も高く上げていく。
昂る熱は夏に常に比例して、胸はいつでも炎天下。
夏、即ちそれは恋の季節。
余計な言い訳も言い逃れもせずに、裸のまま心を剥き出しに、熱く恋に恋をしたならいい。




「ね、テオ君。あっちにまた洞窟を見付けたの。今度は大きいやつ!」

「へえ。そんなのあったかな。コウモリいそう?」

「うじゃうじゃいそう!」

「いや、何でそこでテンションが上がるのか分からないんだけど……」

「後で一緒に行ってみようよ」

「時間が空いたらな」

「うん!」




恋に恋したなら、そのまま溺れる勢いでダイブする。
本当に溺れたとしても、そこは救助なんて必要無い。
自力でこの恋を泳ぎ切ってみせるから。

だから―――……?




「それで?今度はキスより先でもさせてくれんの?」

「し……しないよ?!」

「はいはい。分かってるって」

「な…、本当にしないからね?!」








この夏、俺と付き合いなよ。
















20140613 end.

テオはそろそろ、もうね、いい加減頑張ったから恋をさせてあげてもいいと思うの。うん。
あのゼンさんと張り合ってよく頑張ったよ。
思いっきり背伸びして、あ、でも等身大の背伸びね。
かなり頑張ったからね、夏だし恋をさせてあげたくなりました。
ミッシェル城の平均年齢をグッと下げてくれたテオですが、若くたってね、恋はしていいと思うのですよ!
(ノンちゃんが平均年齢上げすぎ)

テオ、好きです^//^





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