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流れを打った切る不意討ちのキスに、茉莉は頬を真っ赤に染めて狼狽えた。
彼女の自在な百面相には、レオナルドも改めて感心したようだ。
「……っ、な!」
「今度は赤くなるのか。本当に自由な顔だな」
「む…、だったら何だって言うんですか。まさか、フグの次はタコみたいとでも言うんですか?」
「流石に俺も君をタコ呼ばわりなんてしないぞ?」
「タコもフグもあまり変わらないと思うんですけど……」
そう二人で他愛のない会話を交わしていたなら、茉莉はふと肝心な事を忘れていた事を思い出す。
「……あ」
「どうした?」
「レオナルド様、ちょっと待っていて下さい。直ぐに戻りますから」
「?」
茉莉は一旦レオナルドに断りを入れると室内に戻った。
暫くして、再びバルコニーへと戻って来た彼女の手には、何やら紙袋が一つ。
不思議そうに小首を傾げるレオナルドに、茉莉は手にする紙袋を差し出しながら満面に微笑んだ。
「はい。レオナルド様」
「……これは?」
「私からのクリスマスプレゼントです。大した物ではないんですけど……」
「プレゼント?」
それは、茉莉がジョシュアとジャンと話していた時にも抱えていた、あの紙袋だ。
次にいつレオナルドに会えるのかも解らず、音信不通な彼に愚痴を溢しながらも、近付くクリスマスに備えてプレゼントだけは用意していた。
それを漸く手渡し出来る事に、茉莉の顔には嬉しさが広がる。
「式典もあったし、年末年始は公務も立て込むと思っていたので、渡せるのは来年になるかなと思ってたんですけど……今夜お渡し出来て良かったです」
「参ったな。まさか、プレゼントを貰えるなんて思ってもいなかったから油断してた。……開けても?」
「はい、是非」
レオナルドは茉莉から紙袋を受け取ると、プレゼントを取り出した。
上品にリボンの施された包装を丁寧に解き、中身を手に取ってみたなら、それは大判のストール。
彼の蜂蜜色の髪に良く映えるだろう、綺麗な藍色のストールだった。
「いいね、好きな色だ。ありがとう。大切にする」
「はい。ぐるぐる巻いてやって下さい。お風邪でも引かれたら大変ですから」
「それは暖かそうだな」
少しの照れ臭さに、くすくすと笑みを溢して茉莉が笑う。
そんな彼女の笑顔に、レオナルドは改まって口を開いた。
「俺からも君に贈りたい物がある」
「え?」
そう言って、レオナルドは上着から何かを取り出した。
だが、それは彼の掌に隠されて、茉莉の目からは何かは解らない。
彼の拳に握られているだろう小さな何かに、茉莉が首を傾げて訊ねた。
「何ですか?」
「さて、ここで質問だ。上手く答えられたら、今なら漏れ無く俺の愛が付いてくる」
不思議がる茉莉に、レオナルドが微笑む。
「右手に欲しい?左手に欲しい?」
「それって……」
彼の質問が意味する事。
それを十分に察した茉莉は、声を大にして答えた。
「左手に欲しいです……!」
三日月の尖りを美しく際立たせる、澄んだ12月の夜空。
雪の積もる街並みを眺めながら、胸は永遠の誓いを立てて震えた。
左手の薬指に輝く煌めきは、美しさを雪の中に眩しく放つ。
「王子だからと言って世継ぎ問題に振り回される気は更々無いが、どうせなら男も女もどっちも欲しいかな。茉莉はどう?」
「ど、どうと言われてましても…っ…」
「女性が最高に感じると男の子が生まれるとは聞いたな。早速試してみる?」
「そんな事、一体誰に聞いたんですか?!」
そして、今宵も彼は微笑う。
悪戯に、意地悪に、
嫌味なまでに極上の美貌で以て、極上の微笑みで。
「風邪を引くなと言ったのは君だろ?だったら温め合うのが一番じゃないか。人肌で」
「寒いんだったら、そのままストールを巻いてて下さい!」
「却下。君からのプレゼントをベッドで皺にする訳にはいかないんでね」
「……っ、もう!」
そんな彼を手懐ける女性が、ここに一人。
だから今宵も―――……、
彼は彼女の膝の上で、甘く優しい夢を見るのだ。
20141211
―――end.
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