シャワーから飛散する細かな雫が、私の頭から爪先までを打ち付ける。
それは自身の火照りをごまかすように、熱く強く。
心臓がやけにバクバクしているのも、行き所のない熱が全身を循環するのも、全部シャワーのせいだと言い訳出来るようにするため。
ギュウッと目を閉じれば、智也さんの顔が浮かんでは消え…やっぱり浮かんでしまうのだ。
蒸気が私に纏わり付く。頭がぼんやりとしてくる頃、バスルームの扉が二回ノックされた。
「美月? 長いけど大丈夫?」
心配そうな声が聞こえ、ハッと我に返る。思えばもう随分長いことこうしていたかもしれない。
私は慌てて蛇口を捻る。
「はっはい!すぐ出ます…」
そう答えれば、扉の向こうの声が明るいものへと変わる。
「急かしちゃったかな。…早くキミを抱き締めたくて……向こうで待ってるから」
足音が遠退く。
そろっと扉を開けて、バスタオルに身を包んだ。ふんわりとした肌触りが、私を幾分安心させる。
何の気無しに鏡に視線を向けると、自分の胸元に赤く刻まれた小さな印。それを目にとめた途端、頬がピンク色に染まる。
誰に見られているわけでもないのに、恥ずかしくて手の平でそっと隠した。
(私…智也さんと……)
心臓が一向に落ち着かない。
全身で脈打っている気がして、だけど沈める術を知らないから。必死にごまかしてみようとしたのだけど、ダメだ。
…抱き締めたい、だなんて。
そんなこと言われたら帰れなくなる。離れたくなくなる。
伝えてくれた、触れていたいと思っているのは私だけじゃないって。
嬉しさと切なさが交差する。夜が明けたら、また会えない日が続くのだろうか。
けど…
忙しいのは悪いことじゃない。むしろ彼の能力が多くの人々に必要とされている現状を喜ぶべきなんだ。
智也さんは好きでこの仕事を選んだ。疲労の色は見えるも、今まで以上に生き生きと励んでいるように思える。
"寂しい"という言葉は飲み込んだ。
(…ちゃんと笑顔で応援してあげなくちゃ)
そんなことを考えながら、衣服に腕を通して、バスルームを後にした。