私の不安要因は、桜庭さんの何気ない一言から始まった。
「酒は人を変えるって本当なんだなー」
夕飯を口にしながら、清田さんを見てニヤッと笑う桜庭さん。
みんなの視線が集まり、清田さんは居心地悪そうに顔をしかめる。
「…なんすか?」
「創ちゃんてばとぼけちゃってー。四人で飲み行った時、美人な店員さんにデレデレニャンニャンだったじゃん♪」
(えっ?!清田さんがデレデレニャンニャン…? し、信じられない……)
常に上から目線で、ぶっきらぼうに接してくる清田さんしか知らない私は驚愕した。
てっきり女の人が嫌いだと思っていたけど…
「へぇ〜創一さんは酔うとデレニャンなんですね」
「おい、翔吉。なんでも略せば良いと思ってるだろ」
すると、菊原さんが肯定する。
「確かにこの前の清田は見物だった。いつもは女に言い寄られても避けるくせに…」
「全く記憶にないですけど…」
「そりゃあ、あんだけ飲めば…ねぇ?」
桜庭さんは菊原さんに同意を求めるようにするが、彼は栗巻さんに視線を移していた。
「…俺は栗巻の豹変の方がびっくりしたけどな」
急に話を振られても、興味なさそうな栗巻さん。
「…何が?」
「そうだよなぁ!文ちゃん一人で急に大爆笑するから心臓に悪いよ!」
(ええっ?!栗巻さんが大爆笑って…う、嘘だ、想像できない……)
またまた驚愕。無表情で何を考えているか分からない栗巻さん。
微笑すら見たことがない私にとっては目から鱗だった。翔ちゃんもあんぐりと口を開けている。
「…覚えてないけど」
曖昧に首を傾げる栗巻さんを見て、やれやれといった様子な和人さん。
「記憶が飛ぶ程飲んだのか…創一も文太も若いうちからあまり無理するもんじゃないよ」
そう窘める和人さんを見て、ふと考える。
(和人さんって酔うまで飲まなそうだよね。仕事に影響が出るといけないだろうし…)
続いて桜庭さんを見ると、翔ちゃん相手に飲み会の日についてまだ語っている。その横顔はとても楽しそうだ。
(桜庭さんは、まぁいつもみたいな感じでテンションが高くなるのかな。たまにリビングとかで飲んでるの見るし。翔ちゃんは…未成年だもんね)
じゃあ…
(菊原さんは?)
涼しげな顔で箸を進める彼。
酔っている姿が思い浮かばない。まじまじと見つめていると、ふいに目が合う。
クスリと笑われ、私は慌てて視線を逸らすのだった。