──翌朝。
名前を呼ばれたような気がして目を開ける。
うっとりするような微笑みがそこにはあって、優しく髪を撫でられた。
「菊、原さん…」
(うわぁ…朝からかっこいいなぁ……って、え?!)
意識が夢から現実に切り替わり、ガバッと起き上がる私。絶対顔は真っ赤。
上半身裸の菊原さんを前に目のやり場に困ってしまう。辛うじて自分は彼のYシャツに身を包んでいたが。
「おはよう、美月」
「おはようございます……」
寝起きの頭ながら、昨夜のことが思い出された。
あの後屋上で濃厚なキスをされて、そのまま彼の部屋へ連れて行かれて。要するに一夜を共にしたわけで…
全部をさらけ出したわけで…
狂ったようにしがみついて、はしたない声を発していた記憶がある。
(…や、やだ、今でもドキドキする……)
そんな羞恥を消し去るように、ガバッと布団を被った。
「美月は純粋だな」
からかい甲斐がある、なんて布団をめくられて。昨夜と同じように唇を親指でなぞられる。
また一気に顔が熱くなってくる。
「酔ってなかったんですね」
「あぁ、酔ってない。あのビールは裕介が片付け忘れたものだ」
「か、からかったんですか?」
「キミの反応が可愛いからつい、ね…」
菊原さんって意地悪だ。
悔しくなって少し強めに言い返してみる。
「可愛くないですっ!だ、だいたい昨日の夜、屋上で何していたんですか?!」
「あぁ…歌詞を書いていたら目が冴えてね、気分転換」
そう言いながら、軽くキスをしてきて。ニヤリと笑った彼はやっぱり意地悪。
「美月がいたから、違う意味で気分転換になったけどね」
菊原さんの掌で転がされる私。
だけど、こんな関係も悪くないと思えたのは…
「俺は美月にはいつだって酔っているよ」
嬉しすぎる台詞を耳元で囁かれたから。あぁ、私の方がどんどん酔っていく。
(菊原さんってお酒より厄介かもしれない…)
*End*
→あとがき