屋上の扉を開き、彼の元へ寄ると不自然な点に気付く。
(あれ…?)
特に何も持っていない菊原さん。煙草を吸いに来たわけではないのだろうか。
テーブルには灰皿の代わりに飲みかけの缶ビールが置いてある。
(なんでわざわざこの時間にビール…?)
そんなことを思いながら菊原さんを見れば、声を掛けるタイミングもなく引き寄せられる。
ふわっと漂う甘美な香水に加え、密着した体から伝わる別の体温。いつもより妙に熱い気がして心臓が騒ぎ出す。
「ど、どうしたんですか?」
動揺して彼の体を押せば、無言のままに顎を持ち上げられた。
二人の視線が交わる。蕩けそうな程に潤んだ瞳が、私を捕えて離さない。
身動きがひとつ出来ずにいると、眼鏡の奥の瞳が妖しく揺れた。
(まさか、とは…思うけど……)
「酔ってるんですか?」
そう聞けば、不敵な笑みを浮かべて。明確な答えは返ってこない。
「…どっちだと思う?」
私の唇をなぞる親指。
徐々に唇を割って入り、弄ぶように私の咥内を指で愛撫した。
「んん…っ」
慣れない感覚にどうして良いのか分からない。クスクス笑う菊原さんと、戸惑いっぱなしの私。
指が引き抜かれたと思ったら、首筋を触れるか触れないかの絶妙なタッチでなぞり出す。
反射的にビクッとしてしまい、更に楽しげに目を細める菊原さん。
「ねぇ…なんでそんな無防備な格好してるの?」
「え…?」
(無防備って…?)
今着ているルームウェアは確かに薄手だが、別にこれといっておかしなデザインではないはず。
「…へぇ…白か。汚したくなるな」
「…!!」
言われて見てみれば、胸元のボタンがひとつ開いている。その隙間から下着が見え隠れしていて、背が高い彼の位置からは容易に視界に入るだろう。
(そ、そうだ。暑くて外したんだった…)
自分の部屋にいたものだから油断していた。
急いでボタンを止めようするが、その腕を菊原さんに退かされる。
「ねぇ、美月…他の男に見られたらどうするの?」
「ご、ごめんなさい…」
「…許してあげないって言ったら?」
菊原さんは指先で私の襟をずらし、胸元にキスを落とした。
「あ…っ」
「どうなるか分かってるよね…?」
──…。