深夜2:45…
私は窓を開けてぼんやり星を眺めていた。無意識に小さな溜め息が漏れる。
桜庭さんの言葉が妙に引っ掛かかって眠れなかったのだ。
(美人な店員さん…)
清田さんが女性に絡まれるということは、菊原さんもやはり話し掛けられたりしているのだろうか。
(あのルックスだもんなぁ…)
私は現在菊原さんと交際中だ。
容姿、才能、声から仕種まで…どれを上げても完璧で。そんな彼氏を持つと色々大変だったりする。
大学でもモテる彼。
女子生徒の嫉妬と羨望の眼差しが痛くて、時には自分が彼女でいて良いのかと疑問に思う。
平凡でなんの取り柄もない私。
菊原さんにはもっと相応しい人が…
(ってダメだダメだ!菊原さんは私を選んでくれたんだから…前向きでいなくっちゃ!)
自分に言い聞かせるようにペシペシと頬を叩いた。
すると、上から聞き慣れた声が降って来る。
「キミは見ていて飽きないね」
驚いて見上げれば、菊原さんが屋上のフェンスに寄り掛かって下を見下ろしていた。面白いものでも見るかのように口角をあげて。
「こんな夜中に一人で百面相?」
「あ、えっと…見なかったことにしてください」
変なところを見られてしまった。お願いはしてみたが、彼は意味深な笑みを返すだけ。
ややあって、彼が静かに口を開く。
「眠れないの?」
「ええ、まぁ…」
曖昧に頷けば、色っぽい声が闇に響く。
「なら…こっちにおいでよ」
菊原さん独特のそれは、誘惑ともとれる力を持っている。
断るという選択肢など無いかのように、私は迷うことなく屋上へと向かった。