P.1/6




ある土曜日の午後。

アトリエからはピアノのやわらかな音色が流れ、リビングでは清田さんがテレビを見ながら舟を漕いでいる。

翔ちゃんの部屋からは翔ちゃんと桜庭さんがきっとゲームをしているのだろう。

ふたりのちょっと賑やかすぎる笑い声が漏れてくる。

和人さんはクライアントとの打ち合わせに出かけていて、栗巻さんは今日一度も姿を見ていない。

そんな風に、四つ葉荘の住人たちは思い思いに過ごしていた。


“美月”と、ふいに声をかけられて振り向くと、パジャマ姿の栗巻さんが部屋から出てきたところだった。

「あ、栗巻さん。おはようございます」

眠っている清田さんを起こさないように、小さな声でそっと答える。

「……美月、ひま?」

「え?」

唐突な質問に思わず気の抜けた声を出してしまった。

「暗室に……行こ?」

あくびをかみ殺しながら、そう言って、栗巻さんはふわんと微笑んだ。

(この笑顔……弱いんだよなあ……

デッサンしようと思ったけど……まあ、いいか)

微笑みを返しながら頷いた私に、栗巻さんは満足そうに目を細めて笑った。


――――

「わあ……すごい、本格的ですね!」

普段あまり立ち入ることのない離れ。

そこに設けられた暗室に入るなり、私は声をあげる。

「美月は、暗室入るの初めて?」

「あ、いえ。ここが完成した時に一通り見ましたけど……まだ機材とかはなかったので」

「……そっか」





[*前] | [次#]




キミふわTOPに戻る


「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -