テーブルに広げられたノートやプリントを整理し始める松本さん。
どうしても帰ってほしくなくて、脳みそフル回転で引き止める理由を思い付く。
「そっ、そうだ!松本さんに読んでもらいたい本があって…」
立ち上がり、本棚から彼の好きそうな本を選ぼうと人差し指を巡らす。
しかし、ある箇所で私の動きがピタリと止まる。
(まずい…隠すの忘れた…)
途端に変な冷や汗。
目についた背表紙は、
"恋愛初心者マニュアル"
"相手の心を掴む深層心理テスト恋愛編"
etc…
「読んでほしい本はそれか?」
「ち、違いますっ!これは友達が置いていったもので私が買ったわけではなくて、その…っ」
早口で否定しながら、内心バクバク。
重いとか気持ち悪いとか思われたかもしれない。何よりこんな無様な言い訳をして、呆れられたに決まってる。
「………」
「……嘘ついてすみません」
何か言われる前に、怖くて先に謝ってしまった。多分もう手遅れだけど。
ドン引きされたと思って下を向いていると、松本さんが小さく笑った。
「…え」
「あぁ、ごめん…何に対しても勉強熱心なんだなと思って」
予想外の反応に目をパチパチさせていると、無邪気な笑顔の彼に抱き寄せられる。
「夢中になるって、こういうことだよ。俺は美月の前だと不真面目になってしまうな」
美月の前だと…特別な響きを持つ言葉に胸が高鳴る。
嬉しくなって、ギュウッと抱き締め返した。
「私もです…今日はサボって良いですか?」
「その甘え方は本の受け売りなのか?」
「いえ…本音です、甘えたいんです」
そう伝えれば、体を少し離して。
穏やかな表情の彼から漏れた言葉。
「なら、恋人らしいこと…しようか」
「えーと…例えば?」
「目閉じて」
前言撤回します。
愛の言葉はひとつに限定されません。きっと、大好きな人から発せられる言葉は…全部魔法の言葉だと思うんです。
そんなメルヘン思考な私、惚気すぎですか?
(あなたの言葉、ひとつひとつにドキドキしちゃうよ…)
*End*
→あとがき