ネオンカラーの部屋 / 02


 梗慈が当番で俺だけ休みな当日、俺は少しづつ荷造りしていた荷物を梗慈の部屋に運び込んだ。さすがに三往復もすれば疲れたのと飽きたのと残りの物が一人では運ぶのがきついのとで作業を諦めて、運び込んだ荷物の整理をする。もし時間があればあの時言った通り、梗慈に甘い甘いケーキを作ろうと画策していたからか、思いのほか整理は早く済み、現在その甘い甘いケーキを作成中である。とはいってもクリスマスの新作ケーキをいくつか考えたいのも相俟って試作品を兼ねている。ただ、梗慈が食べるのは早くて次の日の昼前。すぐに感想を聞けないのは残念だ。

 日付が変わる頃に仕上げたケーキを冷蔵庫に放り込み、これで一応は“当日中にお食べ下さい”に当てはまっているとこじつけ、俺は寝ることにした。やはり梗慈からは何の連絡もなかった。何事もなければそんなにたいして忙しくはないだろうけど、一人になれることも極端に少ないだろう。もしかしたら常に誰かしらがそばにいるかもしれないので、少し残念に思いながらも冷蔵庫の扉にメモを貼っておく。

 次の日、俺は欠伸を噛み殺しながら部屋を後にした。梗慈の部屋の鍵がまだ手に馴染まず特別な感じがする。

 結果から言うと、一緒の所に住んでもすれ違い生活だった。何となく梗慈の気配を感じるものの、朝の早い俺は恭二の帰ってくることの多い時間帯、深夜には寝ている。早朝動き出す俺をやはり感じているような梗慈は寝付いたばかりだ。ただ、言葉もなく互いの気配と寝ている姿を見るだけであっても気持ちが違う。俺は俺でああ、今日も無事だったんだと思うわけで、梗慈はあの試作品ケーキの後から何かを作って冷蔵庫に入れておくと、割に遠慮のない感想をメモにして冷蔵庫に貼ってくれる。

 人から見れば決して付き合ってるとも幸せとも言わないだろうけれど、俺はかなり幸せを感じていた。それでもクリスマス最終日ともなると体力限界ギリギリで半分倒れかけているような状態で梗慈の部屋へ戻る。やりきった感は半端ないが、所詮他人の為。どこか遣る瀬無さを感じるのは自分も恋人を持つ身になったからなのか…… もしも売れ残りのケーキが出れば買って帰ろうと密かに企んでいたのだが、残念ながら全て完売。今更ケーキを作る気力もなし。パティシエなのにケーキのないクリスマスなんてと少々がっくり。まあ、そんなものだろう。

 がちゃがちゃと鍵を開けがっくりしたままドアを入ると部屋中に広がるネオンカラーの光の海。キラキラ光り点滅しどこか忙しなくも幻想的だ。

「おかえり、琉生」

 ぽかんとその様を見ていた俺の間抜けな顔ににやりと笑った梗慈が言った。

「え、あ、ただいま……」

「結構綺麗だろ」

「うん」

「いっつも分厚いカーテンで極力光を遮ってるからな。 今日は逆の発想。 なんか部屋中がクリスマスツリーみたいじゃね?」

「ああ……綺麗だな」

 珍しく素な梗慈の笑顔に俺は思わず見惚れた。キラキラする部屋の中で一番キラキラしている、と思う俺は大概イタイ。

「おまえがケーキ持って帰ってきたら悪いなと思ってたんやけど一応」

 テーブルには俺が作った新作のクリスマスケーキ、因みに甘さ控えめ大人のビュッシュ・ド・ノエル、とシャンパングラスにシャンパン。そしてどう見てもその辺で買ってきた酒のあて系惣菜。この場合の酒は日本酒だ。刺身やたこわさとシャンパンの相性ってどうなんやと本気で笑いそうになった。

「梗慈……お前のセンスめちゃ笑う。 ……ありがとう」

 半分爆笑して声が震えていたが残りの半分は冗談抜きで感動した。それを悟られない様にと思ったが

「おう」

と照れくさそうにぶっきらぼうに言う梗慈に抱きつきたくなった。

 一緒に暮らし始めてようやく気配と寝顔以外を見た日、俺は心底幸せだと感じていた。



終 




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