ネオンカラーの部屋 / 01


「なあ琉生、一緒に暮らすか?」

 梗慈が不意にそう言ったのは、すれ違いの日々が始まりだして4か月を優に超えた11月も残り僅かな頃だった。梗慈はそもそもきっちりと休みがあるわけでもなく、融通が利くときもあれば缶詰め状態なこともある。かくいう俺も定休日とは名ばかりの洋菓子職人なわけで、お互いがどこか諦めていたから何とかなっていたのだが流石に今回ばかりは梗慈もまずいと思ったようだ。

 事の発端は、12月に入ればクリスマス関係でどうしても休みの取れなくなる俺の都合に合わせて11月の末に一緒にゆっくりしようと約束していたのだが、急に梗慈が事務所の当番を変わらなければいけなくなったと言いだしたことにある。珍しく何も用事がない日と聞いていたので、少しくらい呼び出されることがあってもまあ仕方ないと思いながらその日休みを取っていた俺はかなりがっかりして素っ気ない態度を取ってしまった。後で大人げないことをしたと猛省したが、梗慈は俺よりも随分大人だったようでそれに怒るでもなく、俺の機嫌を取るでもなく、ましてや昔喧嘩っ早かった梗慈の癖に喧嘩を吹っかけてくる事も無く、ただ

「悪いな」

と一言言っただけだった。その態度の格好よさに俺は己の態度を猛省することになったのだ。とは言っても楽しみにしていたことも事実で、当番となるとちょっと顔を見るだけや、電話をするだけも難しいので、と言うよりはよっぽどのことでもない限りはこちらから遠慮したいので、一日暇になってしまったしどうしようかと頭を捻らす。

 ウンウン捻らせたところで、結局新作ケーキでも考えるかクリスマスも近いことだしと落ち着くのが常で。どうせなら梗慈に喰わせてやろう、嫌がらせも込めてなんて物騒な事を考えていると、梗慈の呆れ返った声が聞こえた。

「ダダ漏れや、あほ」

「え? どの辺から」

「まぬけ面。 俺にその嫌がらせの甘い新作ケーキ喰わすにしても一緒に暮らした方が楽やろう? 毎日でも喰わせられるしな」

「なにそれ、めちゃ美味しい」

「どんだけ喰わせる気や、まったく」

「なんか言ったか?」

「いや?」

「梗慈、全然貫禄ないからなあ、だからいつまでも下っ端なんやって絶対」

「いや、まあ違うけどそれでええし」

 ふんふんと鼻歌交じりな俺を梗慈は心底馬鹿にしたような目で見ていたけれど俺は全くめげない。

「で、家どうするよ」

「ん?」

「いや、だから家。 どっちに住むにしても手狭だろ」

「あー、そうだなあ」

「とりあえずどっちかの家に住むとして、年明けたら探しに行くか?」

「ん、わかった。 じゃあ俺とりあえず梗慈のとこに転がり込む」

「俺の所のキッチンはなんもないからな」

「運べるもん運ぶからええよ。 俺の所やったら2人住むにはあまりにも狭すぎ。 仕事柄寝に帰るだけやと思って超安い部屋にしたから」

 あはは…… と乾いた笑いをこぼす俺に、梗慈は俺の部屋を思い出したのか至極納得と言うような顔をして頷いた。

 その点、梗慈の部屋は繁華街の中にあるからネオンが何時になってもキラキラギラギラしているがそこそこ広い。男の一人暮らしで2DKはないやろうと初めて家に行った時に思ったのは内緒の話だ。いくら片田舎の繁華街で家賃なんか都会の半分くらいかと思っても頂けない。

「お前、まさか誰か連れ込むために広い部屋借りたんじゃないわな」

「あほ」

「しかもなんで2DK? 1LDK違って」

「たまたまや。 予算と場所と1日の内どの時間に出入りしても誰も文句言わんやろうって探したらこうなっただけや」

「そしたらわざわざ来年あえて探さんでもよくないか? お互いそんなに部屋に居座れるわけでもないし、俺も店までここの方が近いし」

「そうか? はっきり言ってこの辺りは夜中でもうるさいぞ」

 梗慈は少し心配そうに俺を見た。

 別に田舎にこだわってあの町に住んでいたわけではない。もしかしたら梗慈に会えるかもと未練がましい気持ちがどこかにあったのと、梗慈とのつながりが切れてしまうのが嫌だっただけだ。

「大丈夫大丈夫。 もしやっぱりあかんわってなったらその時に探せばいいし」

「わかった」

「そしたらちょっとずつ引っ越ししようかなあ」

「無理すんなよ」

「OK、OK」



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