人形の夢
まるで
何もかもが手のひらから滑り落ちて行く
そんな錯覚を覚える
そこにあった
夢や希望が水のように
何もかも
壊れてヒビの入った笑顔が
モンタージュのように張り付いている
そこに残ったのは生気のない
人形の顔
転がり墜ちたそこは奈落
人形の顔に
だからといって何か表情が浮かぶわけでもなく
ただ硝子球のような瞳でみつめている
そこで起こる総てのことを
何も感じずに
何も考えずに
何にも脅かされずに
例えばそこに真っ赤な雨が降ろうと
心が引き裂かれるような叫びが響こうと
自身が切り刻まれようとしたとしても
その硝子球は一点をみつめ続けて
なんの感情も現さない
遥か遠くまるで天からの望みのように
一筋の光が差し込むことがあって
それがまるで蜘蛛の糸のように
救いを差し延べていたとしても
人形の瞳は動くことなく
変わらず一点だけをみつめ続ける
スポットライトのように
奈落に光があたり
人形は夢を見る
美しくきらきらと眩いばかりに光る夢を
それがどんなに儚くて
どんなに脆いものか
身に染みて知っているのに
それでも夢を見る
いつかこの奈落の底から抜け出して
いつかまた夢で見た世界に座れるように
ぽつんと一人きりでも
その暖かい光が照すそこに座れるように
だけどそこは奈落で
人形の硝子球の瞳には
何も映らない
何も映らない
何も
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