真昼の花火 01
春になれば古傷がじくりじくりと痛む。桜が感傷的な気分にさせるからかと心の奥底で思っていることをごまかす。何年も何年も桂也はそうやって折り合いをつけてきて、また今年も変わらずそう折り合いをつける。
あれから10年。長い年月が流れたと思うがその長い年月の中で変わったことなど高が知れていると思うのもまた事実。十代特有の無鉄砲さも勢いもなくなってしまったが、その代わりにそこそこの凄みはついたのではないかと思う。いや、そう思いたいのかと、桂也は苦笑する。いつの頃からか女を追いかけなくなった。追いかけなくなったら逆に女が追いかけてくるようになったがそのすべてが空しく感じるようになった。そうなると必然的に金が回らなくなるから、ない頭をひねって何とかがむしゃらにやってみたらそこそこ自分で金を動かせるようになった。金を動かせるようになれば当然下っ端からも脱却できるわけで、いつしか
「兄貴」
なんて呼ばれる立場になった。
「小野寺の兄貴、古賀さんが呼んではりますよ」
「あ? ああ……」
女と切れてしまってから監視カメラの映像の前がもっぱら非番の時の桂也の居場所になった。それは今も変わらず、普段はそんなに呼びつけることのない古賀も、ここに桂也が座っている時だけは何かしら折を見て呼びつけた。ぼんやりと眺めていた映像の前から立ち上がり桂也は、そういえばまだ飯食ってなかったなと場違いな事を考える。
「お、桂也、悪いな、非番に呼びつけて」
「いえ」
古賀の嫌味ともとれる言葉に、桂也はお望みの通りと言うばかりに嫌な顔をして見せた。そういう態度をとっても古賀は豪快に笑うだけだ。相変わらず子供扱いをする。
「しかしお前も進歩のないやつやなあ」
「……」
「で、飯食ったんか?」
「いえ、まだですけど?」
「そうか。 じゃあ、暇な暇な桂也君にお願いしようか」
「古賀さん」
「ん?」
「気持ち悪い」
はははと爆笑しながら
「お前も言うようになったよなあ」
と古賀は目を細めた。
「坊ン所へ届け物してくれ」
「わかりました」
「ついでに坊ンに飯食わせてもらってこい。 最近どうせまたろくなもん食ってないんだろうよ、お前は」
「いや、いくらなんでも……」
「桂ちゃん」
「あれ、在有さん」
「なんだか久しぶりだね。 あのね桂ちゃん、最近桂ちゃんも忙しそうであんまりお話しできてないし兄さんなんてなかなか帰ってこないし、だからね、僕、兄さんに桂ちゃんとお父さんも交えてお食事会してねってお願いしたの。 いやって言ったら僕もう口きかないからねって言ったらちょっと急に決まっちゃって、ごめんね、桂ちゃんの都合も聞かないで」
「いやいや、別にそれは全然いいっすけどね、多分親父的には在有さんと二人の方が良かったんじゃないかと……」
「いいよ、僕がそうしたかったんだから」
桂也はそっと溜息を吐きながら変わらず爆笑している古賀を睨みつけた。
「車回してきますから待っといて貰えますか」
「桂也、運転は坂崎に言ってる。 お、タイミング良いな」
古賀はポケットから携帯を取り出し、
「おー、俺や。 用意できたか。 ん、わかった。 在有さん、車用意できたようです。桂也、頼んどくぞ」
「はい。 行きましょか、在有さん」
「うん。 じゃあ、古賀さん行ってきます」
「お気を付けて」
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