ホスピタル・エナジー side軍嗣
散々暴れていた在有が突然電池の切れたロボットみたいに固まったかと思ったら、次の瞬間、ぐらりとその体が傾く。
「在有っ」
倒れる寸前で抱きしめるが身動ぎ一つせん。
思わず覗き込んだその顔は苦痛に満ちて、その目はしっかりと閉じられ、全ての外敵を遮断しようとするかのようやった。
閉じた目の端に、まるで宝石のように涙が一雫。
俺はそっと在有のその小さな体を抱きしめた。
「とりあえず、今のうちに診ましょう」
先生の声に我に返った俺は、在有の服を捲り上げ合点がいった。そらこれやったら見せたないわな。やるせなさにため息吐く俺と、びっくりした顔をした後苦虫潰したような顔に変化させた先生。
残ったのは何も心の傷だけやない。
薄くはなってるんやろうけど確実に虐待されていたという消えない証が、その小さな体にむざむざと残されとった。
「失礼ですけど……」
言葉を濁し、いいよどんだ先生は、意を決したかのように、
「これは、彼が虐待されていると取れますが」
と口にし、あからさまに非難する目で俺を見る。
「先生が覚えとるかはしりませんが、少し前にニュースになった聖和の家、被害者が弟の在有や」
先生は俺の言葉にカルテを見、
「鵜道、在有君か、確かにそんな名前やったな……」
と呟く。
「彼が現在虐待されてるという事実はありませんか」
それでも確かめてくるあたり、そこそこ熱血漢なんやろ。俺は気を悪くすることもなく、あそこにいる在有の周りにこういう人がいて、もっと接触する人がいたならば、と悔しく思う。
しかし先生は別のことを考えたようで、
「気を悪くされたらすいません。 ですが虐待で命を落とす子供がたくさんいることも事実ですから」
と、申し訳なさそうにしかし毅然と口にする。その言葉はある意味重たく俺にのしかかる。
「わかります」
俺は頷きながらそのもっともな言葉を噛み締める。在有をもっと早く迎えに行っていたら、こいつはこんなに苦しまんですんだやろと思うといたたまれない。自分のせいだと自分を責めたりはせんけど、 あの時の判断が正しかったと言い切れない。
重い沈黙のまま在有を診た先生は、場の空気にそぐわない間の抜けた声で
「風邪ですね」
と言った。
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