シンフォニック おまけ
僕はきなこ。
公園のベンチで一人淋しく鳴いていたらありあくんに拾われたん。みんな僕のこと、
「黒猫や、不吉や」
って嫌がったり苛めたりしたのに、ありあくんだけは僕に手を差し伸べてくれたん。よくわからないけど、きっとありあくんは痛みに敏感なんや。だってすごく優しい目をしてるんやもん。僕はありあくんに拾われてすごく幸せ。
ありあくんの家は‘やくざ’ってあんまり人から好かれる職業じゃないみたいやけど、みんな優しくてありあくんも僕を大切にしてくれる。
初めはありあくんにかまってもらいたくて僕はありあくんにべったりやったけど、そのうち大きな庭に僕と同じように黒い猫が現れて、ちょっぴり興味を持つようになった。みんな僕より大きくて、なんだか僕は心強い気がしたん。だっておんなじように黒いんやもん。
初めはちょっと怖くて遠目に伺うだけやった僕もみんなも、気が付けば一歩ずつ歩み寄っててん。
僕と同じくらいの 年でいたずら好きなアルト。ちょっとお兄さんで穏やかなリン。そして頼れるお兄さん的存在の厳ついけど優しい喧嘩早いセーブル。
おっかなびっくりでつきあい始めた僕は、外の世界を怖がって決して庭から出えへんかったけど、みんなそんな僕を気遣って毎日毎日飽きもせずに通ってくれてん。
「……きなこ……」
遠慮がちに呼ぶありあくんに、僕が遊ぶのそっちのけで飛んでいっても。
それからひと月もしないうちに僕はすっかりみんなに懐いちゃって、あんなに怖かった外へ行こうって気になってん。
だってアルトはこの庭もお気に入りやったけど、外へ行きたそうやったし……
「大丈夫や、おまえのことは守ってやる」
って、セーブルの言葉が嬉しくてきっと何もかもが上手く行くって思ったん。だからみんなで公園に行って、大はしゃぎで疲れちゃった僕はセーブルに背負われた暖かい温もりに夢見てるみたいで、ありあくんの哀しい心には気づけへんかったん。
ありあくんに助けてもらってあんなに嬉しかったのに。僕もありあくんを助けたいって思ってたのに。
僕は初めてできた友達と初めて 持った恋心にうつつを抜かして、ありあくんの気持ちに気付けやんかったん。
僕には、にゃあと泣けば飛んできてくれるアルトやリン、そしてセーブルがおるのに。
どうかどうかありあくんが泣いた時、誰かがありあくんのそばにいてくれますように……
終
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