シンフォニック 04


 昼間在有ときなこは別行動をする事が多くなったが、それでも軍嗣が帰ってくる夜はいつもべったりで、軍嗣は正直少し面白くなかった。それでも在有に対しては優しく頼りになる兄であることを崩せない軍嗣は、その日も遅く帰ってきて、在有と一緒にうたた寝しているきなこの丸まった体を在有の頭を撫でてやるのと同じように優しく撫でる。

 うにゃ……

 きなこの方が敏感なのか軍嗣のその手に薄目を開け、それが軍嗣だと認識するとまた目を閉じる。今までなら在有を抱き上げて寝室まで運んでいたが、今はきなこもいる。

 軍嗣はそっと

「在有?」

と起こしにかかった。なんだか在有を運ぶ役目もきなこに取り上げられたようで少しばかり不満である。それでも例え少しの時間でも引き離すのが忍びないようなくらいくっついているのだから、仕方がない。

「在有?」

「……ん……」

 むずかるように眉間にしわを寄せているその顔すらかわいい。重症やな……と 溜め息吐いて、

「ほら、在有、寝るんやったらベッドに行かな風邪ひくぞ」

 半分寝ぼけた在有にきなこを抱かせ、軍嗣は在有を抱き上げた。少食の在有はまだまだ軽い。程よい重さに在有の存在を噛み締める。在有は片手できなこを抱き、もう片手を軍嗣の首筋に絡める。

「在有、今度一緒にきなこの首輪、見に行くか?」

 在有はこくんと頷き、夢の世界へ再度旅立とうとする。





 軍嗣がその約束を守れたのは、それからしばらく経ってからだった。その約束を在有は夢現なままで聞いたものだから、気のせいだったのだと思っていた矢先に、

「在有、今からきなこの首輪見に行くか?」

と問われ、在有は嬉しさに小躍りするように頷き、気のせいじゃなかったと喜んだ。

 連れて行ってもらったお店は少しこじゃれた感じのペットショップと言うには少々悩む雰囲気の漂うお店で、在有は物珍しさから、ついついぐるりと一通り見てまわる。在有のそんな楽しげな様子に、最近元気のない様子だったのでそれを見て軍嗣はホッと人知らず息を吐いた。

 結局、小さなシルバーの鈴のついた真紅の本革の細い首輪を手に取り、他にきなこの喜びそうな物数点と共に買い求めた。在有はにこにこと綺麗に包んで貰った首輪を胸に抱きしめる。その笑顔が余りに清々しく、だから気付かなかった。

 その笑顔の奥に隠れた不安と恐怖に。在有の様子に最大の注意を払っている軍嗣ですら。





 家に帰り、普段はどこかに出かけているきなこが、にゃあと出迎える。

 それはまるで自分を置いてどこに行っていたのだと拗ねるようで、軍嗣は在有に抱き上げられるだろうきなこが癪で、在有より先に抱き上げる。我ながら情けないと少々苦笑しながら。

「いい仔にしてたか? きなこ」

 軍嗣の子どもに対するような言いぐさに近くにいた古賀は苦笑し、在有はきなこの毛並みを撫でながら、

「きなこの首輪、買ってもらったよ」

と嬉しそうに言う。きなこはもう一度にゃあと鳴き、軍嗣の腕の中から懸命に在有に手を伸ばしてもがく。ふと、

(親父、俺がちっちゃい在有抱いてるときこんな気持ちやったんやろか)

と今更ながらに辰二の寂しかっただろう気持ちに気づいて、軍事はがっくりと肩を落とす。

 それを見て、とうとう古賀が耐え られなくなったのか吹き出した。軍事に睨まれて、古賀は笑いながら事務所へと戻っていく。若い者がその古賀の笑いに何事だと少しばかりびくびくしていたとか。



終 




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