虹の彼方 03


 在有が母親の死を受け入れた上で、それでも父親に会わせてあげたいと言う在有の優しく切ない気持ちに。

 奏見が辰二の元へ自ら帰らなかったのが迎えに来て欲しいという女の意地なら、辰二が二人を探さなかったのも男が折れられるかと言う男の意地。些細な喧嘩が発端の意地の張り合いは、二人を二度と結びつけることなく終わってしまったから、在有はその虹の彼方に願いをかける。

「あっ、蝶や」

 不意に桂也が口にする。

 今まで桂也に見えていなかった虹色の蝶が、二人を誘導するかのように飛んでいるのが桂也にも見えた。

「……虹の、化身すかね、あの蝶」

「きっと、そうだよ」

 在有は桂也にも蝶が見えた事が嬉しくて、

「桂也さん、行こっ」

と走り出す。

「在有さんっ」

 朝から走ってばっかりやな、と桂也はため息吐き、それでも笑顔で追いかける。





 やがて見えてきたお寺の前で、虹色の蝶はここだというように何回も旋回する。桂也は見覚えのある寺にあれっと首を傾げる。門の前に止まる国産の黒塗りの車は普段からよく見知ったものでさらに首を傾げるが、在有の

「早く早くっ」

と言う声に頭の隅に追いやり在有を追いかける。門をくぐり抜けて、虹色の蝶は一目散に進んでいく。在有はわくわくと、桂也は訝しげについて行く。立ち並ぶお墓の間を通り抜け、その先に他の墓よりも広い敷地に4人黒いスーツの男たちが立っているのが見える。

 虹色の蝶はここで役目が終わりなのか、在有の頭の上を旋回する。

「お母さん……?」

 在有は蝶に向かい呟く。まるで笑うようにそよ風が通り過ぎていき、蝶は桂也の頭の上も旋回する。

‘あなたの会いたい人に早く会えるといいわね’

 風にのってそんな声が聞こえたような気がした。桂也は思わず蝶を見上げると、蝶は虹に吸い込まれるかのように、高く高く飛んでいった。

「お母さんっ」

 在有がぽろぽろと涙をこぼしながら空へ手を伸ばす。落ちる涙の雫が光を透かしてきらきらと輝いている。

「在有っ」

 在有 の声にびっくりしたみたいに、よく知った男の声が在有を呼ぶ。

「……お兄ちゃん……、お父さん、も……」

 虹の袂に来たはずなのにそこには軍嗣と辰二、それに古賀と壱善が立っている。桂也はここが鵜道の菩提寺であることに唐突に気づく。毎年お盆には先代の墓参りに組総出できてるし、在有の母親の奏見もここに眠っていることを知っている。思い出さなかったことに桂也は自分で自分自身に呆れる。

 在有がパタパタと軍嗣の方へ駆けていく後ろから、罰の悪そうな顔をして桂也が続く。

「在有、奏見の眠ってる場所や」

 辰二は在有の頭に大きな手を置いて、その墓を指す。

「お母さん……、お父さんに会えたんやね、……よかったね……」

 在有の頭を乱暴にわしゃわしゃと掻き撫で、辰二は一人墓を離れた。古賀が間をあけてついて行くが決して声はかけなかった。

 在有は軍嗣にここまで来ることになった経過を楽しそうに話し始めた。

 大きな大きな虹は、遥か彼方に掛かっているまま。





 あの虹の袂に階段があって、それを上って虹の橋を渡れば会いたい人に会える。

 いつでも、会いたい人に会える……


終 




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