ひとひら 04
満面の笑顔で応える夏芽に、疾風は真顔で、
「また、一緒に踊りたいな、夏芽」
と肩を軽く叩く。
「……俺も……」
少し陰った夏芽の表情に、疾風は敏感に反応し、
「これ、俺の携帯。婆娑羅の疾風。婆娑羅は踊り集団やから、イベントや祭にはたいがい顔出すし。いつでも飛び入り歓迎!」
他のメンバーにも口々に勧誘され、夏芽は一礼して離れた。
『踊りたい、めちゃ踊りたい……』
興奮醒めぬまま、まるでステップ踏む様な軽やかさで夏芽はアパートへ戻った。当然まだ壱善は帰ってなくて、部屋から洩れる灯もなく、暗く物哀しい居住まいだが、それでも壱善を待つ夏芽は、楽しくて楽しくて小躍りする様に手軽な料理を作り始める。
柔らかい笑みを満面に浮かべながら……
朝焼けの空が広がり部屋が仄かな光に包まれる頃、夏芽は小さく欠伸をし、
『できたっ』
と、テーブルの上をきらきらした目で眺めた。
『壱善さん、びっくりするかなぁ』
壱善がどんな顔をするのか考えるだけで夏芽の頬は緩む。重箱はもとより、大きな盛皿もないようだったので、丸皿何枚かを使い盛り付けて見る。
黒豆や煮しめはお鉢に盛り付け、出来上がってしまうと途端に睡魔に襲われた夏芽は、毛布を持ってきてソファにコロンと横になった。
黒豆やゴマメ、ローストビーフは出来合いのものが売られているなんて知らなかった。おかげでだいぶ手間が省けたし、実際作った物と言えば、ピリ辛のきんぴらごぼうと、コルネハム、そして煮しめだけ。
あとはお雑煮をしようと、おすましとお餅、具に白菜、椎茸、ホウレン草、かしわ、海老を用意している。
『壱善さん夕方って言ってたから、それまで寝よっ』
まだまだ帰ってこない壱善の顔を思い浮かべながら、夏芽はにこにこと寝入った。
[ 5/9 ][*prev] [next#]
戻る
[しおりを挟む]