軍嗣回想 在有がサンタになる日


 ヤクザを稼業とする俺のうちは、昔からクリスマスも正月も無縁なもんやった。だけど年末年始はとにかく忙しい。クリスマスは忘年会シーズン真っ只中で、親父とクリスマスを祝ったことなんて思い返してみても無いに等しい。正月は正月で親父は新年挨拶まわりに本部に行き、俺は次々と集まってくる鵜道組組員達と親父を待っとる。親父が帰って来た瞬間からは宴会で、祝儀袋が配られる頃には目も当てられん様になっとる。

 そんな、賑やかで忙しない年末年始が物心着いた頃から繰り返されとって、どっぷりとその環境に浸かっていた俺は、今年のクリスマスかてクリスマスイブ前日まで気づかずにいた。

 学校が冬休みに入ってからは、もっぱら先輩の家に集まっては、暴ヤンでもないくせに年末年始に掛けての暴走計画を練ってたりして、時々帰る家で奏見さんに

「在有はお兄ちゃんいなくて元気ないの、軍嗣さん」

と訴えられるように言われるもんやから、ますます寄りつかんようなる。在有のことは気になってたんやけど、その頃の俺にはそんな些細な馬鹿げた事も、同じくらい大事なこと やった。

 久々にゆっくり家にでも帰るかと思った俺は、クリスマスイブの前日の夕方事務所の前に立って、一瞬目を疑った。

 ここは、ヤクザの事務所やねん。

 確かに続きで裏は個人住宅になっとんねんけど、ほとんど使わへんけど個人住宅用の玄関もちゃんとあるゆうのに、あえて事務所の方に小さいけれど誰がどう観てもツリーだとわかるように飾り付けされた鉢が置かれとった。

 さらに、イルミネーション付きやねん。白い光と青い光、大きさのまちまちな金・銀のボールの飾り、ガラスで作られた透明な天使のオブジェもところどころにかかってる。

 ……奏見さんの趣味やなぁ……って思わず現実逃避しかけた俺は、少しばかり重い気持ちを引きずって家の中に入った。

「坊、おかえりなさい。明日の夜も帰って下さいね」

 入った瞬間に目ざとく俺の姿をみつけた古賀に、明日の釘をさされる。しかも、事務所の中までクリスマス一色……何がおこってんのや?

 首を傾げながら奥へ行き、リビングへ入って行ったらハイハイをするようになった在有が、びっくりするような勢いで俺の足元まで来て、ギュッと抱きつく。

 そんな在有を抱き上げてあやすように背をポンポン叩き、

「クリスマス一色なんは奏見さん?」

と問えば、奏見さんはにこやかに笑って首を振る。

「……ほな、誰?」

「わしや」

と、親父に頭を叩かれる。怒ろうとしたら、在有がぷくっと膨れて親父に怒ってくれたからそれで満足や。

「で、なんで親父がクリスマスやねん」

「在有が喜ぶやろ」

 俺には全然やったくせに、それどうよ?思わず不審な目で見たら、親父はにやっと笑って、

「おまえと違って在有は喜んでくれるからな」

とぬかしやがる。自分の親父ながらいい根性しとるわ。ほんまに。





 クリスマスイブ当日、俺はあたふたとプレゼントを買いに奔走した。親父だけやない、在有の喜ぶ顔を見たいのは。

 親父より喜んでもらうんや、と次々店に入っては思うような物が見つからず焦りに焦って、俺はなんとか用意に間に合うと、在有が寝てしまってからこそこそと枕元にプレゼントを置く自分と親父の姿を想像して苦笑した。

 在有はきっと 満面に笑みを浮かべて喜んでくれるやろ。プレゼントを選んでいる時、選んだ後がこんなにも楽しいもんやと初めて知った。





 クリスマス当日、朝起きて俺はめちゃびっくりした。なんで自分とこにもプレゼントあんねん! 綺麗に包装された小さな箱を手に呆然とし、だんだんと顔が赤くなる。

 親父、何考えとんねん。そんなに昔のこと、気にしてたんかよ。柄にもなく真っ赤に照れてそっと開けたその箱には、メリークリスマス! と書かれたカードと共に、欲しかったアクセサリーがキラキラと輝いとった。

 顔の熱が引くのを待って在有のところへ行くと、すでに起きてプレゼントの包装を豪快に破ってるとこやった。にこにこしながらビリビリ破る姿はほんとに楽しそうで、俺の顔も思わず綻ぶ。

「在有、何もらったんや? サンタさんに」

 アーアーと言葉にならない言葉で喜びを表現して振り返る。

 在有がプレゼントを開けていくのを飽きずに見ている俺を確認するように、俺をちらちらと見ながら開けた箱から現れたプ レゼントは、俺とお揃いのアクセサリー。

 まだまだ在有がつけるには早いやろうけど、俺はめちゃ嬉しなった。

「在有、よかったなぁ」

 在有はわかってんのかどうかわからんけど、こくこくと頷く。親父も粋なことする。

 在有は続けて俺からのプレゼントを開ける。

 またもや気持ちいいくらいに包装紙をビリビリ破り、箱の中を覗き込むように見た在有は、在有ほどの大きさのあるテディベアのぬいぐるみをぎゅうぅと抱きしめ、まるで箱の中に埋もれてるよう。

 俺はテディベアごと在有を抱き上げる。思った通り可愛い。

「あらあ、在有よかったね、可愛いクマさんやね」

 アーアーて答えている在有を床に下ろしとると親父も部屋に入ってきて、

「おっ在有、よかったなぁ、可愛いクマさんやなぁ」

「うーうー、……に、にゃあ……」

 え?

 みんながピキンと固まる。

「今、在有喋ったよな?」

「喋ったわ」

「……なんで一番に軍嗣やねん」

 親父の悔しそうな顔が、ちょっと嬉しい。

「在有、ありがとう。 メリークリスマス」

 最高の贈り物、在有のはじめての言葉。最高のクリスマス。





 Merry X'mas&Happy X'mas!



終 




[ 12/15 ]

[*prev] [next#]
戻る
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -