軍嗣回想 在有に慰められた日


 祭りの日、在有が

「にーにゃ」

って言ったんはやっぱり気のせいやったんやろか。あれっきり俺のことも呼んでくれへんし、しゃべったとも聞かへん。そうよなぁ、まだ喋る訳ないか……

 うちは確かに人の出入り多いし、怒声も日常茶飯時、とにかく誰かしらが喋ってるような環境やけど、だからって言って話すのが特別早いわけやないよなぁ。絶対に余所よりは早いと思ってるけど……

「なぁ、在有、もう一回呼んでみ?」

 ぷにぷにした頬を軽くつついて在有に囁くけど、在有はただ喜んできゃきゃというだけ。

 早く話ししたいな、在有。

 ちょっと哀愁漂う顔にでもなってたんやろか、抱き上げた在有はちっちゃい手で俺の頬を触り、顔を寄せてちゅっって……

 えぇぇっっ!

 ほっぺにチュウ……

 いや偶然やろ偶然。

 それでも十分小躍りするくらい嬉しくて、思わず在有をぎゅっと抱き締めた。

 煩悩の日々、再到来……



終 




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