軍嗣回想 在有と祭りに行く日


 朝っぱらから俺はわくわくしてる。

 今日は近くの神社の夏祭りで、たいした出しもんはないねんけどそのわりに夜店がずらりと立ち並び、毎年たくさんの人が訪れる。

 当然俺も在有を連れて行くつもりでずっと楽しみに待っとった。

 そわそわしてる俺に気付いたんか、それともテキヤ衆と最終打ち合わせにバタバタしとる組の雰囲気に気付いたんか、在有もどことなく落ち着きなく、俺は時々甘えたようにぐずる在有を何度も抱っこしてあやした。

 祭りデビューの在有には、法被を着せようと考えて、俺は黒地に赤で『祭』と書かれた物を用意していた。それにねじり鉢巻きをしたら、完璧。在有のその可愛くて勇ましい姿を想像しただけで、俺の頬は緩んでくる。

 俺は、というと無難に浴衣のつもりや。在有とおそろいの黒地の浴衣でシックに着流すつもりでおる。

 帯に団扇をさすかささないか、結構どうでもいいことに今真剣に悩んでる。

「坊ン、今日の祭りですけど、人の出多そうですし、在有坊連れて行くんは無理や思うんですけど」

 古参の幹部、古賀の進言に俺は眉を顰め る。別に祭りに一人で行ってもおもしろない。が、古賀の言うことにも一理ある。

 ちらっと在有を見ると、古賀の言葉を的確に理解したのか、今にも泣きそうな、置いて行かれることが哀しいって言う顔をしとった。

「……あんまり酷かったら早よ帰って来る」

 俺が精一杯の譲歩策を口にすると、

「ほな若いもん付けましょうか」

と古賀は俺に伺うように言うが、それは決定事項や言う威圧感を俺は感じた。いやいややったけど、在有を危険に晒すわけにはいかんから、俺は黙ってうなづいた。

 古賀は早速、うちの中でも少し厳つい顔つきの二人に、俺らに着いて行くよう指示を出しとった。



 夕方になり、日もそろそろ落ちようかという頃、俺は在有に法被を着せ、ねじり鉢巻きを頭に巻いた。在有は連れて行ってもらえることがかなり嬉しいようで、いつもの3倍増しでにこにこしとる。

 俺は浴衣に着替えるために、在有を奏見さんに渡すと在有はまた置いてかれる思ったんかむずかっとったけど

「あらぁ、在有男前になって。軍嗣兄ちゃんもこれから男前 になりに行って来るから、一緒に楽しみに待ってよね」

って奏見さんに言われて、途端に機嫌を直しとった。

 なんて分かりやすいやっちゃ……

 俺はおかしいやら感心するやら、とにかく超特急で着替えて来ようと奥の部屋へと移動した。



終 




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