軍嗣回想 在有と願い事をする日


 学校の帰りに通る幼稚園の門に笹飾りが飾られてて、俺はなにげなしに見とった。拙い字で一生懸命書いたんやろう願い事が、どれもこれも微笑ましくて、自然と顔がニヤける。

 まだ在有は字も書けんし、字どころか願い事なんてことも理解できへんやろけど、なんとなく笹が欲しくなった。綺麗に飾り付けたら、在有が喜んできゃっきゃっ言いながら手を叩くだろう様が、簡単に想像できる。考えるだけで俺は更に顔が緩んで、気がついたら笹を担いで、出来合いの飾りを片手にしとった。

 家帰ったら早速飾り付けて、短冊に願い事書いて、七夕の日は在有を抱っこして、天の川みながら彦星と織り姫の話ししちゃろう。





 帰ってきた俺を見て組のもんは目を点にしとったけど、まだ若い下積みのもん何人かはすぐに面白がって一緒に飾り付けてくれた。

 こいつらもなかなかガキや……人のこと言えた義理ちゃうけど……

 在有そっちのけでわいわい騒ぎながら飾り付けとったら、とうとう在有は泣き出して、奏見さんがどんなにあやしても泣きやまへんくて、俺の方に手を伸ばそうとしてくる。

「在有、ちょっと待ってや。もうすぐ終わるから」

 それでも在有はよっぽど寂しかったんか泣きやまへん。奏見さんはそんな在有みて、

「在有は甘えたやねぇ」

と頬をぷよぷよとつつく。更に激しく泣き出した在有に苦笑し、奏見さんから在有を受け取って、片手で抱っこしながら短冊に何書こうか睨む。

 すでに在有は上機嫌で、笹飾りに一生懸命手を伸ばしていた。

「綺麗やろ、在有。もうすぐ七夕やから、これに願い事書くんやで」

 わかってるかは甚だ疑問やけど、そう説明してやると、在有は短冊に手を伸ばす。

 なんか書きたいんか?

 俺は在有の握り締めた手に無理矢理色ペンを持たせてみた。

 クシャクシャと線を書いていく在有の顔は真剣そのもので、こいつがいったいどんな願い事したんか解読は不可能やけど、俺は書き終わった在有の短冊に、

 ありあ

とひらがなで名前を入れ、一緒に飾り付ける。

 俺の願い事?

『在有がいつも笑顔でいてれますように』

 大好きな在有がいつも幸せでありますように、祈りを込めて。



 在有は想像通り、きゃっきゃっと笑っている。



終 




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