軍嗣回想 在有が泣いた日


 はっきし言って、在有は赤ちゃんやと言うのにあんまり泣かへん。それって発育上どうよ? って心配になることも実はたまにある。それともあれか、幸せやったら泣くことでしか伝えられへん赤ん坊でも泣かんちゅうことなんやろか?けど、俺からしたら妙に遠慮されてるみたいな気して、時々、

「もっと泣いてええんやで?」

って、赤ん坊相手に呟いてたりする。

 重傷や……

 ハァ……

 それでも在有は、わかったんかわかってへんのか、天真爛漫な笑顔で、ぎすぎすした心さえ癒してくれる。

 ほんとはもっともっと泣いて、甘えて、わがままいっぱいしてくれていんやけど……や、赤ちゃんで『わがままいっぱい』は無理かもしれへんけど。よその赤ちゃんもこんななんやろか?

 不安や……



 ああ、そやけど一回めちゃくちゃ泣いたことあったな。今から思えば、それもやっぱり赤ちゃんらしくない理由のような気もせんではないけど……

 あれはいつやったかな。

 俺は、確かに極道の息子で、正直決して真面目でもなかったけ ど、こういうんもなんやけど、可愛いいヤンキーやってん。

 別に単車がとりわけ好きってこともなかったから暴ヤンもしてなかったし、誰かとつるんで喧嘩に明け暮れることもなかった。根本的に誰かとつるんで、ヤクザの子やから言われるんに飽き飽きしてたんや。それに、生半可に悪い奴はヤクザの子やからって近寄ってもこんかったし。俺も中坊の頃は生半可な人間やったから、バリバリヤンキーやってる奴等にとってはもの足りへんかったと思う。

 それがなんかの弾みで一回だけ、暴ヤンの争いに巻き込まれたことあってん。

 生半可な人間やったけど、喧嘩はそこたしでは一番強かったし、こういう時だけヤクザの子ってステータスが武器になったし、俺もムシャクシャしとったんやろな……

 とにかく暴れるだけ暴れて、二日くらい家空けて結局補導されて親に引き渡された。

 家に戻ったらとにかく凄かった。

 在有がいっこも泣きやめへん。しかも俺が乱闘騒ぎに講じてる頃から、寝るか泣くかやったみたいで、奏見さんは俺の顔見て困ったように、

「……ようやく赤ちゃんらしくなったのかな……」

って囁いた。

「在有……ごめんな」

 けど一向に許してもらわれへん俺に、

「在有はちゃんとわかってんのや」

って親父が一言ズシンとくる言葉を言って俺の頭をはたいた。

「なんもいうことない。在有がどんだけ心配して悲しかったか、こんだけ泣いてんのみたらおまえにもわかるやろ」

 それは下手な説教より利いた。

 俺は学校からくらった謹慎期間中、在有を抱いてごめんと言い続けた。

 どうやったら泣きやんでくれんのか全くわかれへんかって、ただそれを繰り返すしか方法がなかったんや。

 在有はそれから3日間ぐすぐずと泣き続け、ようやくちらほら笑顔が戻ってきた。



 とりあえず、在有をこんだけ泣かしたんは、今回が最初で、今んとこ最後や。

 ごめんな、在有。



終 




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