軍嗣回想 在有にミルクを飲ませた日


 俺は今、哺乳瓶片手におろおろしてる。とりあえず奏見さんの言う通りミルクは作った。ようわからんけど、人肌くらいにの温度にもなった。

 俺は哺乳瓶と在有を交互に見る。なんか在有の顔が期待に満ちてる気がする……

 奏見さんは体調崩して病院へ行ったまま、まだ帰ってきそうにない。

 在有は賢くていっこも泣けへんかったけど、抱っこする俺の服をちっちゃな手でギュッと握り締めてて、それは意外に強い力やった。奏見さんが病院行くのがちっちゃい子なりに不安やったんやろ。

 それがなんか可愛くて、兄バカ? 丸出しでずっと在有をあやしたり、遊んだりしてたんやけど、さすがにお腹が空いたのか、在有はだんだん機嫌が悪くなってた。

「在有、腹へったんか?」

 俺の言葉がわかるのか、そう聞いた途端、ふにゃあと顔が歪み、えっくえっくと泣き出す。

 なんだかその泣き方がどこか遠慮してるみたいで、なんや可哀相になって

「ちょっと待っとれよ」

と声を掛け、ベッドに寝かせた。

 で、俺は奮闘したわけや。

 慣れやん危なっかしい手つきで、なんとかミルクを作り、密かに味見とかせんで大丈夫やろかと思いながら、テーブルに哺乳瓶を置き、在有に手を伸ばす。

 在有は抱っこしてもらいたかったのか、すぐに両手を上げ、

「あっ、あっ」

と歓喜の声を上げる。

 俺は笑み崩れた顔を自覚しながら、そっと抱き上げた。片手でしっかり支え、哺乳瓶を口に近付けるとすぐに在有は吸い付く。

 ちっちゃな手に哺乳瓶を持たせると、手に余る大きな哺乳瓶を抱き抱え、一生懸命飲んでる。

 俺は哺乳瓶をそっと支えながら、飽きもせずに在有を見ていた。

 やがて在有は満腹になったんか、とろんとした目で哺乳瓶から口を離し、俺に哺乳瓶を押し付けた。俺は在有の背中をとんとんと軽く叩きゲップをさせ、寝かせる。

 在有は俺の手をギュッと掴んだまま、うつらうつらとし始める。その顔が余りにも幸せそうで、俺もにこにこしながら見ていた。

 この幸せが、いつまでも続きますように、と願いながら……



終 




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