クリスマスプレゼント 本文
十二月二十日、終業式が終わったその足で家に戻ってきた黒守は、まず家のドアを開けて吃驚した。吃驚しすぎると声が出ないとは本当の事らしい。
玄関には大きなクリスマスツリーが置かれ、電飾のみシンプルさが煌めいて幻想的で大人っぽい雰囲気を醸し出してはいるが、如何せん極道を稼業とする家、いったい誰が用意して、誰が飾り付けたのだろうと頭をよぎるのはいたしかたないこと。きっとたまたま家にいた組員を駆り出して晴陽が音頭を取ったのだろうことは容易く想像出来て、黒守は心の中で御愁傷様と思った。
クリスマスと言うものは知っているが、自分に関係のないものだった。物心がついた頃にはサンタクロースは自分には来ないものと悟ったし、早々とサンタクロースが親だと言うことにも気付いた。
考えてみれば可愛げないことこの上ないが、それが日常だったのだから仕方がない。
玄関のクリスマスツリーは精神衛生上よろしくないので見なかったことにした黒守はリビングに入ってまたもや吃驚した。
テーブルに置かれたキャンドルが揺らめいて癒されるが、燭台はゴールド基調のクリスマスを彷彿させるデザインだし、あちこちに置かれているサンタクロースやトナカイの引くソリ、ガラスの小さなツリーが嫌でもクリスマス風情である。
これで暖炉と煙突があれば完璧だなとは心の中だけで呟くことにする。
うかうかと呟いて聞かれでもしたら本当に家を改装増築し兼ねないことはよく分かっている。黒守は頭が痛くなってきた気がした。
「あら、お帰り」
呆然と突っ立っていた黒守ににこやかにかつ穏やかに声を掛ける晴陽はいつもと変わらず、黒守は反射で
「ただいま」
と呟いた。
「なんだか、凄いな」
いろいろと。それはやはり心の中だけで。
「クリスマスだから」
にっこり笑って言う晴陽も、子供を持って初めてのクリスマスであることに黒守は不意に気が付いた。自分も初めてで照れている。晴陽は初めてで張り切っている。そうしたら、煕一郎はどうなんだろうと言う疑問は煕一郎が帰ってきた時に分かった。煕一郎は初めてでおたおたしている。全てのことが微笑ましい。
最高のクリスマスプレゼントだと黒守は胸がほっこり温かくなったように思った。
だけどそれはまだまだ序の口で、二十五日の朝、黒守は度胆を抜かれた。
二十四日のクリスマスイブはささやかなホームパーティでこれがクリスマスかと堪能した。煕一郎に勧められたから、久しぶりに少しお酒も飲んだ。決して弱い方ではないが、それでも高揚とした雰囲気に酔ったのか、夜はぐっすりと眠った。
そうして目覚めてみれば所狭しと置かれたクリスマスプレゼント。
数えてみればその数はちょうど十七個で、一つ一つ包装紙も違えば大きさも違う。開けてみれば服だったり、小物だったりとすぐに使えるものばかり。きっと自分に負担にならないようにと二人で選んでくれたのだろう。
最後のプレゼントには綺麗なクリスマスカードも添えられていて、『十七回分のメリークリスマス』と書かれていた。
「ありがとう。 ……ありがとう、母さん、親父……」
落ちた水滴は静かに消えた。
ありがとう、メリークリスマス……
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