第5章 04


 僕がかなちゃんに会えたのは、それから10日程経ってからのことやった。

 数日は僕も少し熱を出して寝込んでいたから、会えなくても仕方がなかったのだけど、熱が引き元気になってからキッチンに行ってみてもかなちゃんはいないし、誰に聞いても口を濁すから、実はかなちゃんは無事って言うのは嘘で入院してるんちゃうかとか、いろいろ悪い方へ悪い方へと考えた。

 実際怪我したって聞いていたし……

 僕があんまり不安がるものだから、かなちゃんが帰ってくると言う日にお兄ちゃんは

「迎えに行くか?」

と聞いてくれた。いても経ってもいられなかった僕は二つ返事で迎えに行くと言い、車に乗り込んだ。

 てっきり病院へ行くんやと思ってた。疑いもせず、どこの病院やろうって考えていた。だけどついたところは警察署で、僕は訳が分からないままぽかんとしていた。

「……だから本当は迎えは古賀か壱善あたりのつもりやったんや」

 お兄ちゃんのちょっと拗ねたような声がなんだかあまりにも不似合いに可愛らしくて、僕は我に返った。

「どうして、病院じゃないん?」

「あのな、在有。 あいつは猛獣や。 獰猛な猛獣」

「? かなちゃんは、いっつも優しいよ?」

「随分と大きな猫を何枚も被ってただけや」

「……きなこは、被れないよ?」

「……ああ、そうだな。 はあ。 あいつほど極道向きな奴はおらんな。 しかももう少し今より前の世代の極道や」

 お兄ちゃんの言うことがいまいちよくわからない僕は首を傾げた。

「正当防衛取るのにどれだけ苦労したことか……」

 なんだかとても疲れているお兄ちゃんの頭を、いつもお兄ちゃんがしてくれるように撫でてみたら、ますますびっくりしたように目を見開いて僕を見、それも次第に目を細めて笑う。

 助手席に座っていた古賀さんがにこやかに笑うのがルームミラーの端にちらりと映った。

「昔のままですね、坊」

 お兄ちゃんは盛大に嫌そうな顔をして見せ舌打ちしたけれど、怒っている訳ではないことはすぐに分かった。

 僕は小さすぎて全然記憶にはないけれど、もしかしたらこんな雰囲気が昔あったのかもしれない。そう思うと、ここから離れていた長い期間がまるでなかったように感じるから不思議や。

 やがてかなちゃんが出てきて古賀さんがもう一台の車に移り、助手席にかなちゃんが座った。

「ご迷惑をお掛けしましてえらいすいません」

 お兄ちゃんにそう言った後、かなちゃんは僕の方を向いて

「怪我しませんでしたか?」

と聞いてきた。僕はこくりと頷き

「かなちゃん、怪我、したんやろ? ごめんね」

と言った。

「こいつの怪我なんかかすり傷みたいなもんや」

 またため息交じりに言うお兄ちゃんに笑ってしまった。

 僕のはるか遠くにいたお兄ちゃんがすごく近く感じて嬉しい。強くて、かっこよくて、だけど優しくて。僕もこんな風になりたい。大好きなお兄ちゃんともう離れたくないし、ずっと一緒に居てたい。

 それは永遠に続く未来のように、今なら思える。



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