第4章 08


【事務所】

 普段自分の部屋に籠もっているか、せいぜい中庭にしか出てこない在有が外に出たことに事務所に詰めていた若い衆は気付かなかった。外を重点的に映し出すカメラは内にはすこぶる弱かったと言うのは単に言い訳だろうが、いつもは誰かしら張り付いてチェックを入れている出入り口付近のカメラの映像も、その時は何の機能も果たしていなかった。

会合が比較的早い時間に終わりその後の付き合いを辰二に任せ、軍嗣は久々に在有と食事にでも行こうと楽しみにしていた。それが事務所に戻ってみれば在有はいない、誰も在有がどうしたか知らない。それどころか軍嗣の

「在有は部屋か?」

の問いに始めて在有がいないことに気付く始末とくる。軍嗣は密かにこめかみがピクピクしていたが、一先ず冷静に

「カメラの録画すぐに調べろ」

と指示を出し事務所のソファーに腰を下ろし煙草をおもむろに喰わえる。在有が行きそうなところを考えてみるがまるで思い当たるところもなく、結局どんどんと自己嫌悪が深くなる。

 情けない…… 誰に当たり散らすこともできない。自分もまるで在有の事がわかっていないのだから……

 自分を責める軍嗣の重い空気をひしひしと感じながら、若い衆達はカメラの分析を進め桂也は顔を真っ青にしおろおろとしている。

「ありましたっ。 今日の夕方、出てます」

 軍嗣はすくっと立ち上がり、

「手のあいてるもんは周辺探せ。 桂也、お前は残って電話番しろ。 古賀に連絡入れとけ」

 泣きそうになっている桂也を軍嗣は責める気はなかった。だから正直ほとほと困っていた。桂也が責任を感じて思い詰めてることもわかっていたし、かといって慰めの言葉をかけてやるほど自分はまだ人間ができてないと見える。事務所が騒然となる中、ふいに飛び出していこうとしていた若い衆が戻ってきて、

「兄貴、在有さん戻ってきましたっ」

と叫んだ。ただ、どこか歯切れが悪い。少々困惑した顔をしている。軍嗣は警戒心露わにしてしかし限りなく冷静に

「……一人か。」

と尋ねた。案の定、

「いえ……」

となんとも歯切れの悪い言葉が返ってくる。

「誰や?」

「在有さんの知り合いや言うてますが……堅気さんかといわれるとちょっと……」

「在有は?」

「……施設で世話になった人、言うてます」

「世話になった、な。 玄関すぐの部屋に通せ。 桂也、古賀に親父今帰らさんよう言うとけ。 桂也、しっかりせぇ」

「うっ、はいっ」

 まだ顔色は良くなかったがそれでも俊敏に動く桂也を見て軍嗣は少しホッとした。

 とにかく在有の顔を見たかった。

 見て安心したかったのか忙しさに放り出していたことを赦されたかったのか、それとも、自分に甘えてこない在有に悔しかったのか、軍嗣は自分でもよくわからない気持ちに突き動かされていた。



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