第3章 03


【鵜道組組事務所】

 在有が戻ると言う前日、まるでお祭りのような高揚感に包まれた事務所の中も今はどこかそわそわしているものの静かであった。軍嗣の醸し出す空気がどことなく騒いではいけないような気にさせるのかもしれない。

 まさか辰二と二人そろって迎えに行くわけにはいかず、必然的に軍嗣が留守を任されることになったのだが、どうにも頭では分かってはいるのが気に喰わない。自分も在有に早く会いたかったのにと子供染みたことを考えてしまう。だからかどことなく軍嗣の廻りには近寄るなオーラが漂い、それを瞬時に感じ取った残った若い衆達もそわそわとしかしこそこそとしていた。

 まるで息を吐くのにも気を使うといった感じである。

 しかも、こういう時の扱いに慣れている若頭補佐の古賀も在有を迎えに行く辰二のお供をしている。誰もが今ほど古賀の凄さをしみじみ実感したことは、多分なかっただろう。





 そろそろ誰もがその重たい空気に耐えられなくなってきた時、天の救いのようにその静寂を破ってけたたましく電話がなった。誰も我先にと電話に飛び付き取った者は僅かな休息にホッと息を吐いた。

「はい、鵜道事務所です」

 電話に出た組員はあからさまにほっとした表情になり、

「古賀さんっ」

と思わずすがるように叫んだ。その声に反応するかのように軍嗣がぴくりと動き、それをみた若い衆達は身構える。

「軍嗣さん、古賀のアニキからです」

 ホッと息を吐きながら取り次いだ組員は、まるで肩の荷を降ろしたかのように緊張を解いた。

「わかった」

 軍嗣が受話器を置く瞬間、また重苦しい空気に包まれる。一言一句、聞き漏らすまいと誰もが軍嗣に意識を向け少し顔を引きつらせていた。

「今向こうを出たそうや。 こっちには寄らんで直接店の方に行くらしい。 今日当番誰や? 当番の奴が来たら出るからそのつもりでおれよ。桂也」

「ぅっ、はいっ」

 突然呼ばれた桂也は慌てておたおたと返事する。内心穏やかでない。それほどに今日の軍嗣は怖いのだ。

「おまえ、時間までここにおんのか?」

「はい」

「時間きたら車回してくれ」

「はい」

 そう言い残して奥へ引っ込んだ軍嗣は実は寝不足である。昨日あまりに楽しみにしすぎたのか、まるで遠足前の小学生のように眠れなかった。ただでさえ忙しい身で普段から十分な睡眠を取れていないから、とりあえず寝ておこうと単純なことを考えてた。

 軍嗣は苦笑を漏らして、ソファに身を横たえた。



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