第2章 11
例えば何が一番欲しいか、などからはじまって、それこそほんの些細なことをより詳細に求められる。
そのたびに桂也は少し在有が羨ましく思う。親のいない自分と、親に迎えられようとする在有……比べるつもりなどさらさらなかったのに、つい比べてしまう。
「……ですから、出た時は一番服に困りました。買うお金もなかったですし、向こうから持ってきた服も知れてましたから」
そう言葉にして、その10代にふさわしくない少々いかつい顔を年相応にクシャクシャっとした桂也を見て、辰二は
『こいつにも何着かスーツ買ってやるか』
と思いながらまずは服を用意するかと考える。
在有を迎えに行く日まで、辰二はいそいそと出かけては、カジュアルな服からスーツまで、組員が顔を歪めるくらいに服を買い漁った。それらは結局スーツを数着買ってもらって感動した桂也の手によって、毎日せっせっとクローゼットに片付けられて行く。
『サイズが合わんかったらどうするんやろ?』
と、誰もが素朴な疑問を持ちながら、誰一人として突っ込まないのはあまりに嬉しそうな辰二の顔に言いそびれてしまったのと、どうせ言っても無駄ということが分かっていたからである。
一番浮かれているのは傍目にも間違いなく父親である辰二で、軍嗣はというと案外しらっとした顔をしている。それでも長い時間軍嗣を見て来た古賀には軍嗣の表情がかなり和らいでいることがわかった。
在有が幼い頃、一番在有を可愛がっていたのは紛れもなく軍嗣である。
在有が奏見に連れられ鵜道組から出て行ったあと一番落ち込んで、古賀は
『もうずっとこのままか?』
と心配したものである。
古賀の心配はよそに軍嗣はメキメキと力を発揮し、3年前の在有の事件が起こった時には自身の力を見せつけ、地位を確立した。
誰もに、
「鵜道の跡継ぎ」
と認めさせるくらいに。それは今から思えば辛かったからかもしれない。がむしゃらに動くことで紛らわしていたのかもしれない。
古賀にはどうしてもそう思えた。
だからこそ、実は辰二以上にそわそわし、落ち着きを無くしていたが、軍嗣はそれを精神力で押し隠していた。まさか組のトップ二人が、浮かれ切ってるわけにはいかないだろう、と。
在有を迎えに行く前日、それぞれの不安と期待を漂わせながら、静かに夜は更けて行く……
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