第2章 06


 そこは三本目で傷付き、四本目は血で滑りがよくなった。僕は息も絶え絶えに喘ぎ、弱々しく頭を振る。何も考えられず、ただどうやったら止めてもらえるんか、そればっかり考えてた。だけど何も思い浮かばずに、徐々に意識を手放そうとする。

「……も、許し、て……」

 これは、罰だから……

 僕は庄能に許しを請い、僅かに庄能が血にたじろいでいるのを見て、

『今日は……これで終われる』

と漠然と思った。

 庄能が僕の中から逃げるように引き、まるでゴミを捨てるみたいに体を転がされ、僕はこの時の終幕を知る。それと同時に意識を手放した。ボロ雑巾のようになった僕の体。そのまま放置される僕の心。この終幕は幻しなんだと、僕はわかっていた。わかっていたけれど、気付かないふりをした……

 その日一日、僕はまともに座ることもできずに、部屋で寝転がってぼーっと過ごした。普段から何かをするわけやないから、僕のその態度が誰かに見咎められることはなかった。

 夕方には庄能が帰って来たけど、さすがに大人しくて、まるで僕の存在なんか忘れてしまったみたいに、何もされる事なく奇妙な静けさで時間が過ぎて行く。

『今日はこのまま何も起こらんでほしい』

 僕が微かな願いに希望を感じた頃、やっぱり何事もなく一日が終わることは有り得ないみたいで、消灯後の庄能は昼とはうってかわって、凶暴になった。

 僕の体は恐怖にまるで動かず、油の切れたロボットのように、ぎこちなく部屋の隅に逃げようとした。庄能はそんな僕を見逃してくれるはずもなく、僕は庄能に髪を掴まれ引きずり回される。僕は恐怖と痛みにされるがままになり、ぱたぱたと知らない間に涙が零れ落ちていた。それは哀しいとか辛いとか、そんな感覚がすでに狂ってしまった涙やった。

 暴力の嵐に僕が無抵抗になった頃合を見計らって、庄能は僕の服を剥ぎ取り僕は荷物のように裏返された。

「あぁ、昨日のん、傷いってるわ」

 まるで人事のように呟いて庄能は僕を軽く蹴る。

「しゃあないわ、治るまでは何もせんといちゃる。ばれても困るしな」

 庄能の言葉をどこか遠くで聞きながら、僕は人形のように横たわり何も考えれないままに夜は更ける。





 それは突然神様がくれた救いの手やったんか、次の日、僕は急にホームの先生に呼ばれ、医務室に寝かされた。

 庄能と僕の部屋は3階で、3階には居室が他になく、階下にもちょうど部屋がない。だから、夜な夜な泣き叫ぶ僕の声はどこにも届くことはなく、そこで起こっている凶行に、誰にも気付かれることはなかった。それでも、僕の顔に殴られた痕が増えていくのを見れば、誰かて何かしらあったと思うやろ。

 僕が庄能にされていることを口にすることは、庄能が怖くてとてもやないけどできなかった。けど、僕の体は正直で、確実に傷付いているためかこの間から軽い微熱が一向に下がらへん。

 体調の悪さを抜きにしても、庄能から一時でも離れられることは、願ったり叶ったりで純粋に嬉しかった。

 医務室のベッドに横になっていると、眠れなくても落ち着く。僕にとって、ここに来てからはじめて心底休める時間やった。何も考えずにただボーッと過ごす時間。ここにいれば安全やとしみじみと思う。

 僕は久々に花占いを思い出し、空想しかけて、不意に止めた。どっちにしても『楽しくない』で終わるやろと思うと、怖くて続けられなくなった。

 それやったら、いっそのこと何も考えへん方がいい。

 せめてこの瞬間だけでも、穏やかに過ごしたい……



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