第2章 04


 そこは僕にとって最悪な場所やった。僕の逃げ場はどこにもなくて、唯一の空想の中の花占いをすることすら思い付きもせんかったし、時間をやり過ごす方法がわからへんようになり、ただいつも怯えて庄能の顔色を伺っていた。

 あの事件以来外にでることができなくなってた僕は、学校に行くことすらできへんくて、庄能が部屋に帰って来るんを一日何もせんで待っているような状態やった。庄能が部屋に帰ってくると、僕は庄能に見つからないようにそっとホームの裏側の物置に隠れる。真っ暗で、はじめは怖くて仕方なかったけど膝を抱えて小さく隠れるんを毎日繰り返していたら、だんだんそこだけが僕にとって安心できる場所になっていた。身を縮めて外の物音だけに集中する、辛いとも哀しいとも思わない麻痺した感覚……

 僕は必死やった。

 見つかったらこないだみたいに殴られて服を奪われる。ただそれだけが頭にあり、そうなったらこの間みたいに体を舐めるように見られるだけでは、終わらへんかもしれへん。そうやって逃げても僕は結局庄能と同じ部屋で、それがどんなに無駄なことか……だけどそんなこと僕は全く気付かへんかった。

 夕方、ご飯を食べてから消灯までの時間、僕は自分の部屋から出ることはできず、まるで針の筵に座らされているように落ち着かず、庄能の動向を一つも見逃すまいといつも目で追っていた。消灯時間がくると僕の恐怖の逃げられない時間が始まる。

 昼間の喧騒が嘘のように物音一つせず静まり返り、庄能はこの時を待っていたとばかりに僕に

「脱げ」

と短く命令する。小さいけれど威圧的な言い方に僕は逆らえば殴られることを思い出し、怯えて、為す統べもなく命令されるがままに服を脱ぐ。服は庄能にひったくられるように奪われ、庄能の前に立たされ、庄能の手で最後の砦でもある下着を荒々しく脱がされる。

「昼間何逃げてんのや」

 庄能はイヤらしい笑いを顔に貼り付けて僕自身を鷲掴みに握る。その容赦ない握られ方に僕はひゅっと息を飲む。すっと目から涙が零れ、僕はギュッと目を瞑る。

 怖くて怖くてがたがたと震える僕を庄能は嘲笑い、僕はますますいたたまれなくなって俯く。庄野は僕のを握ったままゆるゆると手を動かし、僕が逃げようとすると力をこめ、

「動くな」

と、引き戻そうとする。

「……やっ……」

 自由にならない体と痛みを伴う手荒い扱いに、僕が呻くのをめちゃ楽しそうに見る庄能が鬼や悪魔のように感じる。

「おい、次何か言ったら殴るぞ」

 その一言はすごくよく効く魔法のように、僕はきゅっと口をつぐみ逃げようとしていた体すらそこに固まらせる。庄能は満足したようにイヤな笑いを見せながら、僕自身をいつまでも触り続ける。

 それは永遠に続くのかと錯覚すら起こす時間が流れ、僕は別の感覚に戸惑う。どんなにイヤやと心の中で叫んでも、どんなに怖くて逃避しようとしても、執拗に追いかけられ最後に掴まってしまうように、僕は庄能の単調なリズムに感じてくる。殴られることが怖くて一生懸命つぐんでいた口が僅かに開き、微かに洩れる自分の甘い吐息に僕は絶望を感じてまた涙が止まらなくなる。

「フンッ、体は正直やな。気持ちいんやろ? こんなにここ濡らして、イヤらしいな、おまえは」

 足ががくがくと震えて何も言い返せやん僕に庄能はとどめをさすように

「おまえ、あの事件かて、ほんまは自分から誘ったんちゃうんか? あ?」

 そんなことない。

 だけどその言葉は、僕の口から放たれることはなかった。ただ首を横に弱々しく降るだけ。そんな僕を馬鹿にしたように、庄能は小さく笑って手を激しく動かし始める。

「……やぁ、うっ……く……」

 僕は一生懸命唇を噛み締めて耐えるけど段々それすら怪しくなって、不意に口の中に鉄錆の生々しい血の味を感じて、小さく口を開いた。それと同時に僕は下半身に熱を感じて、小刻みに体を震わせて白いものを吐き出して、庄能の手を汚した。

 その白いものを見た瞬間、気持ちよかった……って一瞬頭をかすめて、僕はあの時と違い子どもではなくなっていることに気付き茫然とした。ものすごく罪悪感が襲ってきて、自分が悪いことをしたような気ぃすらした。



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