第2章 03
僕と庄能の関係が一変したのは、僕がホームに来てから数ヶ月経った頃やった。
庄能は何か気に食わないことがあるたびに、僕をストレス発散の道具のように扱い、僕は庄能を見るとまた殴られたり蹴られたりするんと違うやろか、といつもびくびくしてた。
その日も何一ついつもと変わることなく消灯時間が過ぎ、ホームが静まり返る。庄能はいつものように黙って僕の布団をはぎ、僕は次にくるやろう暴力の嵐に心底怯えて、体を小さく丸めてガタガタと震えてた。そやけどいつまで経っても手を振り上げられることなく、足蹴にされることもなく、庄能は黙って僕を見下していて、僕はいつくるか分からない暴力と何を考えているのか分からない不気味さに、どんどんと不安を膨らませてた。不意に庄野は僕の横に屈んで不気味な笑顔を見せながら
「なぁ、おまえ殴られんの好き?」
なんて奇妙な質問を僕にしてきた。僕は質問の意図が分からずに、ぽかんとした顔で庄能を見上げる。
「答えろよ」
小さく小突かれながら返事を促された僕は、慌てて首を勢いよく横に振る。あんまり激しく首を振りすぎてもげてしまうんちゃうかと思うくらいに……そんな必死な僕を嘲笑うかのように見下して、
「おまえがちゃうことの方がいい言うんやったら殴るんはやめちゃってもいいで?」
と、まるで僕に選択権があるというように庄能は今までにない優しさを滲ませながら、僕の顎を掴んで言う。
「どぅや? 殴られへん方がいいか?」
僕は庄能の気が変わらへんうちにとがくがくと何度も何度もうなづいた。僕はその時庄能が何を考えているんかまったく想像もつかんかったし、気付きもせんかった。庄能はニヤリと嫌な笑いを顔に貼り付けて、
「ほな脱いで」
と事も無げに言った。僕はびっくりして一瞬思考回路が止まり、不意に意味を理解して庄能から後退ろうとした。殴られたり蹴られたりするほうがいい。咄嗟にそう思った僕は、とにかく庄能から逃げ出したかった。
けどそんな僕を庄能は見逃すはずもなく、僕の腕を掴んで一気に自分の方へ引き寄せる。
「おまえが自分で選んだんや」
まるで僕が悪いみたいに、まるで僕がお願いしたみたいに宣告する。僕は必死で逃げようとしたけど所詮力で叶うはずもなく、手を突然振り上げられ、大きくビクッと身を竦めた。
殴られる。
そう思った瞬間僕は頬に熱を感じた。いつもなら続け様にくる暴力もそれ一度きりで、庄野は乱暴に僕のパジャマの上着を剥ぎ取った。ボタンが小さな音をたてて転がるのを、僕はあきらめと新たな恐怖の中見ていた。
どうして……
どうして……
どうして神様は助けてくれへんのやろ……
昔、ぉ兄ちゃんがよく言ってた。
「願い事は神様がちゃんと聞いてくれるよ」
って。
ぉ兄ちゃんは決して僕に嘘なんて言えへんかったから、きっと僕はお願い事聞いてもらわれへんのや……
きっと……
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