第2章 02


 聖和の家。僕が今生活しているホームの名前。僕はあの事件のあと入院生活を送ってここに来た。お母さんを刺したヒモは結局捕まらず、未だに逃げ続けてる。聖和の家は、男の子8人と数名の職員で成り立っていて、少人数で各々にあったケアができる、ということで少し問題の抱えている子ばかり集められている。

 僕が一番小さくて、ようやく中学生なったばかり。僕は結局卒業式にも入学式にもでられへんかったけど、でももうきっと学校に行くことはないから、別にいい。





 僕がここに来て、みんなが優しいと思ったんははじめの一週間だけ。ここでは二人部屋が基本で、僕が同室になったのは、高校2年生の庄能直道ってどこか意地悪そうな顔をした人やった。あれこれ決まりなんかを教えてくれて、顔に似合わず優しそうな人で少し安心していた時やった。

「おまえ、ニュースなんかでばんばんやってる事件の被害者なんやろ?」

 ニュースでばんばんやってるかは知らないし、僕は黙って首を傾げた。

「おまえ、性的虐待ってやつ? 受けて来たんやろ? どんなことされてん?」

 興味津々で僕ににじり寄って聞くもんやから、僕は怖くなって後退りする。だけどその分近付いてきて、突然僕の腕を掴んだ。

「っ……ゃっ……」

 びっくりして僕が振り払おうとしても、びくともせず、パンッと突然頬を叩かれる。

「答えろ、もう一回叩かれたいか?」

 振り上げられた手。

「ゃっ……」

 僕は怖くて怖くて目をギュッと瞑り、頭を手で抱えて身を守ろうとする。ふんっと鼻で笑う様な気配の後、僕は両手首を一気に掴まれ、その振り上げられた手で更に頬を叩かれる。何回も何回も繰り返されて、僕は怖くて怖くてこの庄能直道って人に逆らったらあかんって頭に刷り込んだ。お母さんが突然刺された様に、またそんなことが起こるかも知れへん。

『僕が我慢したら、誰も傷つかへん……』

 怖くて胸がキュッキュッって締め付けられてる様な気がする。

 胸が痛い……叩かれた頬何かじゃなくて、胸が痛い……

 いったい何をされるのかわからなくて、ぼんやりした意識の中で僕はその庄能の顔を見上げていた。にやりと嫌な笑い方をして、掴んでいた僕の腕を乱暴に離し、僕は床に転がる。僕を見下す目が、暗くどこか狂っていて、僕はがくがく震える。

「脱げ」

 何の抑揚もない声で、無表情のまま呟く様に僕に命令を下した。僕はただ首を必死に横に振るだけで、だけど決して許してもらうことはできず、あっという間に庄能の手によりすべてはぎ取られてしまう。僕は体を丸めてできるだけすべてを隠そうとする。そんな僕を、庄能は馬鹿にした様に言う。

「今更隠すことないやろ? あ?」

 その口調はまるでヒモそのもので、僕は恐怖にパニックに陥っていた。だけど彼は何も手を出すことはしなかった。ただ眺めて馬鹿にして笑ってるだけ。それでも僕には十分怖かったし恥ずかしかったし、どうすればいいんかもわからへん。

 庄能の行動にびくびくしながら数日過ごし、それでも僕はここでの生活にだいぶん慣れた。庄能が僕に意地悪をするのは自分達の部屋の中だけで、部屋から一歩でると、いかにも優しいお兄さんって態度やった。この家で新参者の僕の居場所はどこにもなくて、僕はできるだけ隅っこの方で小さくなって過ごすのが癖になっていた。

 部屋に戻れば庄能がいる。僕は庄能のいる部屋に戻りたない。庄能は僕にあの思いだしたくもない事件を思い出させる。





 僕は、あの頃みたいにまた空想の世界で花占いをやる。だけど僕は前みたいに、

『楽しい、楽しくない、楽しい、楽しくない……』

って繰り返せなくて、ただひたすら

『楽しくない、楽しくない……』

って呪文のように唱えて、花びらをむしっていた。そうしていないと自分が恐怖に押し潰されてしまう様な気がして、怖かった。



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