第2章 01


 地方の小さい小さい遊園地に、いつだったか連れて行ってもらった時の夢を見てた。

 僕はまだとても小さくて4歳か5歳くらいで、元気いっぱいで駆け回るのをお父さんとお母さんが遠くで笑いながら見てる。その回りに何人かの厳つい男達が立っているのが、その呑気な風景の中で唯一異様と言えば異様な風景やった。

 僕の後ろをのんびり歩きながら見守る背の高い人。僕がはしゃぎすぎて盛大に転んで泣き出したら、

「在有は男やろ。男は泣いたらあかん」

そう笑って小さな僕を軽々と抱き起こして、服についた土を優しく払ってその後頭を撫でてくれる。僕はすぐに笑って、頭にあるその手を小さな自分の手で撫でた。

「ぉ兄ちゃん」

 呼び掛けて上を見上げれば、その顔を見る前にまるで靄がかかったように遠く遠く消えて行く。

「ぉ兄ちゃん! ……兄ちゃぁん……」

 僕は一生懸命叫ぶけど、それは決して届かへん。辺りは暗闇に包まれて、振り向けばさっきまでそこで笑ってたはずのお父さんとお母さんはさらさらと砂の様に消えて行く。回りにいた男達も同じように消えて行った。僕は為す術もなく、ただその暗闇を泣きながら何かを探る様に両手を伸ばして彷徨う。

 やがて見えてきたのは、薄暗くなったやっぱり小さな公園。

 さっきよりは少し大きくなった様な気ぃするまだまだ小さな僕は、その公園の砂場で一人砂の山を作って遊んでいる。辺りは暗くなり、僕以外の子どもの姿は見当たらへん。

 僕は一人、一生懸命高い山を作ろうとするんやけど、砂は積めば積むほどさらさらと流れてどうしても高くならへん。だんだん悲しくなってきて、じわりと涙を目に溜めながらそれでも決して止めようとはせんかった。

 僕は近所の公園で遊ぶ時、いつも一人やった。なんで他の子が僕と遊んでくれへんのか、僕はずっとわからへんかった。僕にはお父さんの仕事が原因で一緒に遊んでもらわれへんなんてこと、思いつきもせんかった。寂しくて、砂の山を作るのを止めようかと考え始めた頃、

「在有っ」

と僕の背後から少し弾んだ声がした。

 僕は手にしていた砂をぱぁっと放り出し、勢いよく声のする方に振り向いた。

「在有、みんな心配してんぞ。ほらっ」

「ぉ兄ちゃんっ」

 僕は差し延べられた手に飛び付く様に手を伸ばす。そやけど、僕はその手を掴むことはできへんかった。

 あと少しで届きそうやのに、その手はどんどん遠ざかり、走っても走っても追いつかれへん。

「ぉ兄ちゃぁん……」

 僕はポロポロ涙を零しながら、必死になって闇の中を追いかけるけど、その姿すら見えなくなってしまった。





 不意に目が醒めた僕は、自分自身を何かから守る様に身を小さく丸めて、頬は濡れていた。

 涙なんかとちゃう……

 少ししょっからい、水……

 僕はそっとその水を拭う。

 夢の中でくらい、ちゃんとお兄ちゃんの顔が見たかったのに……どれもこれも、はっきりと顔がわからへんかった。

 優しくて、僕が小さい頃から大人やった兄……けど、もうはっきりとした記憶はなくて、僕は昔の僕に救いを求めてるんやろか?

 幻影となってしまった、幸せやった時に……



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