第1章 03
僕は為す術もなく恐怖と闘っていた。やがて入口をこじあけるかのように指は一気に押し入ってきた。
「ひっっ」
喉から下手な笛のような声が漏れ、突然の痛みに知らぬ間に涙が零れる。そんな僕の苦しみなどお構いなしに、ヒモは僕を俯せに転がしお尻だけを高く持ち上げた。自分がどんなに卑猥な格好をしているんかなんてことは全く気付かなかった痛みと苦しみに小さく叫ぶ僕の声は、段々と激しく降る雨にかき消された。
まるで僕の存在を消し去ろうとするように……
『痛い……』
自分の体なのに痛みに耐える術を忘れてしまったかのように断続的に続く痛みに、僕は半分意識を飛ばしながら朦朧とただそれだけを繰り返す。無造作にかき回される感覚だけをいつしか追っていた。鮮明に感じる指の動きに、だらしなく開いた口から洩れ続ける言葉にすらならない声。
僕の体を思う存分弄んだというように唐突にヒモは僕の体内から指を引き出し、今にも崩れ落ちそうな僕のお尻をさらに高く持ち上げ、前だけに集中するように手を動かした。
「気持ちいんやろ、在有。そのうちケツでも感じるようになる。そしたらちゃんと突っ込んで可愛がっちゃるからな」
恍惚としたヒモの呟きに体が震えてやまない。それなのに僕は感じてしまって、ヒモのその手を濡らす。
「ケツの処女は高く売れるからな、せいぜい男をその気にさせる術を覚えるんやな」
その言葉がはっきり理解できないくらいに僕は溺れて、ヒモの刻む一定のリズムに追い詰められる。
「……あっ……、ゃあ……」
真っ白い空間をふわふわと飛ぶような奇妙な感覚の中で、僕は始めての精を吐き出した。
学校で早熟な子が話していたような白くどんよりとした物ではなく、半透明な中途半端な幼い物で、ただその事実に少し救われた気がする。
決して快楽を感じた上での自分の意思だったわけでない、と……。
いつまでも続く雨が僕を洗い流してくれることを祈りながら、墜ちるように眠りについた。手を拘束していたベルトが外されたことも、布団に運ばれたことも知らない。
気がつけば朝で、節々の痛む体を無理矢理起こし窓の外を伺う。陽の光が優しく差し込んでくるが僕の中で雨は止んでへんかった。断続的に雨の音が耳の奥で聞こえている。下半身に直接布団が当たる感じがして僕はさらに絶望を感じる。
『お母さんに知られたない』
唯一、僕を助けてくれるかもしれへん存在やのに僕は咄嗟にそう思った。まだ寝付いて間もないだろうお母さんに気付かれることを恐れて、僕はもぞもぞと下着を探した。
僕はいつもと変わらへんつもりやったけど、夜が来ることを恐れるようになり、お母さんはそんな僕の態度を訝っていた。僕は、僕のことだけに精一杯でそんなこと露とも知らず、一週間の中で一番心が休まる日曜日だけが楽しみやった。日曜日はお店が休みで夜もお母さんが家にいるからヒモは僕に何もできない。そのかわりに月曜はまるで二日分だというように、決まっていつも以上に酷いことになる。
あの初めての雨の夜から一月もたつかたたない頃、一生忘れない事件が起こった。僕がもっとうまく隠せたらきっと起こらなかっただろうそれは、あぁこれがきっと地獄の底なんやろなと、僕の心に深く深く大きな傷を残すことになった。
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