第1章 02


 今までヒモに殴られ蹴られ、消えない痣にさらに痣がつけられることもあったけど、こんな扱いを受けたんは初めてで、僕は大海で嵐にあった小舟のようにただ流され、どこに行くのか分からへんままに揺らされることしかできんかった。

 抵抗できやんようになった僕のズボンにヒモが手をかけ一気に引きずり下ろし投げ捨てる。怖くて恥ずかしくて悔しくて、だけどどうにもできない無力さと誰にも助けてもらえない現実に、僕の心はまるで倒壊寸前の建物のようにギシギシと軋んでいく。涙腺が壊れたようにただ涙は流れ、足で僕の体を横にしたヒモがその僕のぐしゃぐしゃになった顔を汚いもんを見るように見下ろし、

「なぁ在有、お前が女やったらもっとよかったのになぁ」

と、囁く。

「ま、どっちでもかまわへんけどな。どうせやること一緒やからな」

 ヒモは僕を舐めるように見、屈んで頬をぺたぺたと軽く叩いたかと思えばおもむろに僕自身を握った。

「ひっ……」

 思わず身を縮こめ体を丸くしようとすると、パァンッと大きな音が響き、ワンテンポ遅れて僕はお尻を力任せに叩かれたことに気付く。気付いた途端に痛みが襲ってきて逃げようともがく。そんな僕に、まるで罰だと言うようにさらに僕自身に力を加え、呻く僕に低い声で告げる。

「動くなっ」

 ヒモのその鋭い言葉で僕は恐怖に支配され、目をギュッと瞑ってただいつものように花びらを数える。どこか意識の遠くで下敷きになっている腕が痛いなぁ、とまるで呑気なことを考えながら。

『悪夢なら覚めてくれ』

 心の底から願っているのに雨音とともに酷くなる。

「在有……恨むんやったら母親恨むんやな」

 ヒモの言葉に、

『あぁ、まだ続くんや』

とどこかで諦める。何も変われへん。どんなに叫んでも、何も……。

 ヒモの手は僕自身を扱き、否応なしに襲ってくる快感に僕は絶望を覚える。

「……ぁっっ……やっっ……」

 強烈な快感とも痛みとも言い難い感覚に、僕は飲み込まれまいと口を一文字にギュッと結ぶ。

「……ンっ……ハァハァ……」

 決して出さへんと決めていたのに、吐息めいた自分の声が耳に入り僕は小さく首を左右に振った。

『聞きたくない、そんな声。僕の声じゃない……。そんなの、僕の声じゃ、ない……』

「気持ちいんか、あぁ?」

 僕を見るヒモの目が嫌らしく嘲笑う。快感。そうかもしれへん。身震いするほど哀しい初めての快感が僕を襲う。僕の意思ではどうにもならへんその痛いくらいの感覚に、だけど嬲られた僕自身は素直で簡単に濡れていく。

「吸い付くような肌してやがる」

 ヒモは僕のお尻を撫でながら呟くようにいい、おもむろに手を上げるのが見えた。パァンッと振り下ろされた手がお尻に炸裂し、痛みに涙が滲む。叩いては撫で、思い出したようにゆるゆると前を嬲りまた手をあげられる。その永遠とも思える繰り返しに僕の意識は混濁していく。痛いんか、気持ちいいんか……

 そして僕は自分自身を否定する。今の状態から逃避するために花占いを何度も何度も繰り返し、自分を否定することで擦り切れそうな自分の精神(こころ)を守ろうと試みる。

「お前、いい値で売れそうやな」

 恍惚としたヒモの呟きに僕は一瞬にして意識を現実に戻され身震いする。きっとほんまに実行するやろう。まさかそんなこと、と頭の片隅のどこかで思いたいのに、それすらうまくできへん。

「……イヤッ……んっ……」

 どんより鈍った頭で朧気に口にしたその言葉にまるで力がなく、ヒモはニヤリと笑い、僕自身が漏らし濡れたその指を淫らに最奥へと動かし口を開けろとばかりに撫で回してはつつく。



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