月宮徒然日記 日常にて5話 / 掃除
朝餉が終わったら、あとの事は神楽に任せて、廉と陣は連立って長屋に戻る。のらりくらりと歩く陣の隣りを、廉はちょこまかちょこまかと歩き、纏わりつく。
「ねえ、陣」
「なんだ」
「今日は仕事だよね? 昼寝てる?」
「ああ」
「僕、占市さんとこ掃除に行って来る」
「先生とこか、随分行ってなかったのだろ?」
「うん」
「……覚悟して行けよ」
「ハハハッ、そだね。むちゃくちゃ汚いだろうね。あぁ、やりがいあるなぁ」
「……そこが廉のいいところだな。可愛い、可愛い」
陣が廉の頭をぐしゃぐしゃとかき撫でると、廉は照れたように笑って陣を見上げた。
長屋の隣りに住む占市は、壊滅的に掃除ができない男である。散らかしたい放題散らかした後、どうにもこうにもならなくなって隣りに住む廉に小遣いを渡して掃除してもらう、というのが占市の処世術である。
占市の占いはとにかく当たると評判で、あちこちから見てもらおうと訪ねて来る人も多いのに、未だに長屋住まいなのは、一つに掃除をしてくれる廉がいるから、ということもある。
怠惰な男である。
長屋に戻り、陣は一つ大きな欠伸をして部屋に入る。
「まぁ、適当にがんばってこい」
「うん、おやすみ」
廉は戸が閉まるのを見てから、隣りの占市の部屋を開ける。
「うっ」
びっくりする汚さである。
「せんせぇい、生きてる?」
どこか幼さの残る廉の物言いに、まるで飛び付くように
「廉ちゃん、待ってたよ!」
と歓待の言葉をかける無精髭に作務衣姿の男が占市である。
「と、とにかくパッと片付けちゃうねっ」
廉は戸を開放したままそこら中に散らかっている物を片付け始めた。部屋の中とは大違いで、清々しい風が流れて行く。廉は鼻歌混じりでテキパキと動き、見る見る間に片付けていき、占市の羨望のまなざしをその小さな体一身に受けていた。
終
(小説文字総数 736字)
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