月宮徒然日記 6月にて5話 / 長雨
どこかに連れて行ってやると言ったものの、こうも雨続きだと約束は果たせぬまま日がどんどんと過ぎていく。
廉の態度を見ていれば、まるでそんな話は始めからなかったかのようであるから、陣としてもそこまで焦っていたわけではないが、退屈このうえない。
昼下がりのしとしと雨は何日続いたことか。
毎日の事となると、さすがの廉でもやることが無くなったようで、今日は陣の隣でごろりとなって本を眺めている。とは言っても廉が読めるのは簡単な字くらいなもので、少しづつ勉強はしているものの、なかなか上達しない。
廉が見る本と言えばもっぱら写真や絵がほとんどのものばかりである。
鼻歌交じりでページをめくる音があまりにも楽しそうで、陣はついっとその本を覗き込んだ。途端に影ができ、見づらくなったのか
「もぉー」
と小さく抗議する声がする。しかしすぐに陣にも見えやすいようにと少し寄せてくれ、陣はその色鮮やかなページに目が釘付けになる。
「綺麗だね」
まるで夢見るようにほうと呟く廉を胡乱実に見、
「そうだな」
と呟いた陣は、この後に廉がこれを見に行ってみたいと言い出すだろうと思っていた。
案の定、
「陣、あのね、今度これ見に行ってみたい」
と好奇心丸出しのキラキラと輝いた目で見上げられた。
「晴れたらな」
「この花、雨の日に映える花なんだって。あじさい、って言う花だよ」
「雨に映える花?」
「うん」
雨の日にわざわざ花を見に行くのか? とは口が裂けても言えない。
月宮では雨の日に楽しめるものが少ない。寄って雨の日にわざわざそういうお出かけをする人間は皆無と言ってもいい。
「品種改良してできた花のようだよ」
そうしたらきっと新しいもの好きの月宮の人たちは、今年は雨の日に我こそはと出かけているのだろうなと人ごみを想像して恐ろしくなったのか、陣は
「くわばら、くわばら」
と反対向きにごろりとなった。
終
(小説文字総数 765字)
[ 4/5 ][*prev] [next#]
戻る
[しおりを挟む]