月宮徒然日記 6月にて5話 / 雨雲
モクモクと沸き立つ嫌な黒い雲を眺めていた廉は眉を顰めた。
ここ最近は雨ばかりで布団を干すことも洗濯をすることもままならない。時々顔を覗かせる太陽を見逃してはなるまいと、日々空とにらめっこをする。あんまり飽きずに空ばかり見ているものだから、陣が呆れたように煙草盆を引き寄せたことにも気付かない。
「なあ、廉。 今日はまた夜仕事で俺はいないけれど、お前さん大丈夫か?」
廉がくるりと振り向けば、寝そべって煙草を吸いながらくわっと一つ欠伸をする陣の怠惰な姿が目に入った。
「……こんな今にも雨が降りそうで、ついでに雷も鳴りそうなときに賊に入ろうなんて物好きはいないよ」
むうっと膨れっ面をする廉に、陣はああ、雷が鳴りそうだからなともう一つ欠伸をする。
廉は若いゆえの好奇心と恐れを跳ね除ける行動力を持ち合わせているが、雷はとんと苦手だ。空を馬鹿みたいに眺めているから、今日の雲が雷を伴う雨雲だと気付いたのだろう。
「行くの?」
「そうさなあ」
「……行ったら末代までたたってやる」
「……末代なあ。 廉限りの祟りだな」
「僕だけじゃないよ。 僕の子供も、孫もずっとずっと永遠に陣のことたたるんだよ」
「なあ廉、俺と一緒に居てる時点でお前に続く子供は期待できないし、ましてや子供ができないのにその先の子供なんてもっとない話だろうよ」
「うっ、そうだけど」
じんわり涙目になる廉をみてはあっと盛大に溜息ついた陣は、
「神楽に声かけておくから。 一人じゃなければ少しはましだろう?」
と声を掛ける。
「……うん、陣がいいけど……我慢する」
「明日は休みだからどこかにつれていってやる」
「本当っ?」
「ああ」
やれやれ、天下に剣士としてどれだけ名を馳せても、廉にだけは勝てないと陣はもう一度煙草に火を点けた。
終
(小説文字総数 723字)
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