両思い 藤嶋篤郎の場合U


 頑張れよ篤郎、と央二に後押しされて、勢いよく瑛二の家に向かったのいいけれど、いざドアと向きあえば、終りやと言った瑛二が頭に浮かんでは消え、また浮かんではどうしようと悩む。

 作りたてのあんなに温かかった料理の熱も徐々に感じなくなっている。それがまるで瑛二の気持ちの様でこのドアを開けるのが怖い。結局合鍵を返さなかったから、ドアを開ける術はある。瑛二も合鍵のことは言わなかったから知らんふりして持ち続けたけど、それが役立つとは思わんかった。

 意を決してドアを開ける。

 通い慣れたはずの部屋がまるで知らない部屋のようだった。何も変わらない意外に綺麗な部屋。いつもはどこかの部屋に瑛二いるか、隣に瑛二が立っていた。考えてみれば瑛二のいない時に上がり込んで瑛二を待ったことがない。それもそうか、ただやるだけの為にこの部屋に来ていたんやから。

「お邪魔します」

 何となく感じた後ろめたさに、普段言わない台詞を残して上がり、勝手知ったるなんとやらでキッチンに立つ。キッチンに立つのはいつも瑛二だった。なし崩し的に始まって、終わればぐったりしている俺に、瑛二はいつも飲み物を持って来てくれた。ただそんな些細なことでさえ今は懐かしい。

 どうしようもない不安を押し殺しながら、央二に教えてもらって作った料理をテーブルに並べていく。もう、温もりは感じない。ケーキでも買ってこればよかったと少し後悔したけれど、今更言っても始まらない。

 棚をあちこちあけて適当なお皿を出し盛り付けていく。央二が最後に教えてくれた豪華に見える盛り付け方を実践しているつもりだけど、なんとも心許ない。瑛二が帰ってきてから温めるものも少しあるが、後は瑛二だけ。どのくらいで帰って来るのか見当もつかないから、長く待つ覚悟をしてテレビをつけた。ドキドキしていてテレビの内容はまるっきり頭に入ってこなかった。

 どのくらい経ったか、思ったより早くドアがかちゃりと鳴り、瑛二が帰ったことを知らせた。俺は柄にもなく緊張してまるで人形のように固まって動けない。テレビの音で誰かが居てることは分かっているだろうから、声を掛けなきゃと思うのに出てこない。

「……篤郎?」

 不意に聞こえた声にはっとする。

「……おかえり」

 ぼそりと口の中で言っただけだから多分聞こえていない。リビングのドアが開き現れた瑛二は

「お前、なんで今日来るわけ?」

とイライラしたように言った。

「瑛二。 ……おれやっぱり瑛二に嫌われてても瑛二と居たい。 一緒におりたいんやっ」

「……」

「なあ、あかん?」

「……お前、俺がどんな思いで終わりを告げたと思ってのんや」

「……」

「わかってんのか? 俺はやくざや。 この先も辞める気はない。 お前はまだまだ先のある高校生や。 俺なんかと付き合ってへんかったらまともな道行ける」

「……瑛二がどうしても終りやって言うんやったら、やくざになる。 そしたら一緒におれる?」

「お前、舐めてんのか?」

 ぽかりと頭を殴られる。険しい顔に鋭い目付き、見たことの無い顔が怖いと思いつつ、それでも見惚れた。

「どっちみちスカウトされてるし」

 怒った瑛二が迫力あってやくざ顔負け…… ってやくざやけど初めて知った。

「誰が言うてんのや?」

「僧堂の親父」

「あっのくそ親父っ」

 そのまま殴り込みにでも行きそうな勢いの瑛二に慌てて

「瑛二」

と声を掛けると般若な顔のままそれでもこちらを向いてくれる。

「瑛二と一緒におったら、言わんと思う」

「……」

「俺は、瑛二が好き。 ずっと一緒におりたい」

 ぽすんと俺の横に座った瑛二は困った顔をして俺の頭をわしゃわしゃと撫でた。

「台無しや、俺の覚悟。 お前、あの料理作ったんか?」

「あ、うん」

「しゃあないな。 俺はお前をやくざにしたない。 かといってお前を手放せそうにもない。 一緒に暮らすか?」

「いいん?」

「……料理がうまかったらな」

 冗談とも本気とも取れないことを料理初心者の俺に言って瑛二は手際よく温めるものを温めだした。

 一緒に暮らすのは高校を卒業してからと、煌紀にも僧堂の親父にも釘をさされるのは後日の話。



終 




[ 39/40 ]

[*prev] [next#]
戻る
[しおりを挟む]



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -