両思い 七竹煌紀の場合
クリスマスの日に央二に思っていることを伝えようと考えていたんやけど、クリスマスなんて行事ごとにやくざが関係あるはずもなく、俺は朝から妙に忙しくあちこちを回っていた。
そもそも今日がクリスマスって言うことは当然年の瀬で、年末までカウントダウンにはいっているわけで、普通に忙しい。それは初めからわかっていたことやのに、俺は何を思ってクリスマスの日にって考えたんだか。
乙女な篤郎に蝕されたのか、なんやかんや言って俺もただの高校生だったと言うべきなのか。
実際勝手にクリスマスにって思っていたけれど、肝心の央二は今日店はかきいれ時だろうから、まさか休むなんてことないやろうし。と言うことは俺が央二の店に出向かなければ央二に会えるわけでもなく、よくよく考えたらかなりばたばたするような気がする。
いまさらや。
どちらにしても動けるのが夜に入ってからなんやったら今はせっせと用事を片付けるに限る。
昼も随分回った頃に家に帰ってみれば、台所から賑やかな声がした。
そう言えば今日篤郎が央二に料理習いに来てるんやったか。
なにやら楽しそうや。だけど時々叫ぶ央二の声は逼迫していて、篤郎の包丁捌きがかなり危なっかしいことがよくわかる。
「おう、煌紀帰ったんか」
「ああ」
「今日はクリスマスやしな、お前もあと一件わしにつきあったら解放してやるからな」
「は?」
「たまにはまあいいやろ、央二も店休んでるみたいやしな。 匂坂も早よ帰らせた」
「なんや、親父知ってたんか?」
「ん? 匂坂と篤郎のことか? 惜しいよなあ、いい人材やったのに」
親父の心底惜しいという気持ちがひしひしと伝わってきた、俺は苦笑した。篤郎がむいてるかどうかと言われたら、多分否だ。どっぷり浸かったらあかんような気がする。
「どっちにしても俺は篤郎とつるむの止める気はないし、匂坂と付き合ったら嫌でも身内になるんやからそれでいいんじゃねえの?」
「それもそうや。 うんうん篤郎やったらそっちの方がいいかもしれへんなあ」
親父の人の悪そうな笑顔に、俺も人の悪い笑顔で返して
「で、どこへお供すればいいん?」
と尋ねた。
戻ってきた時に央二が料理を振る舞ってくれたらいいなあと少し考えたが、それは胸の奥底にしまっておく。今日は篤郎に教えてるんやから期待はできへんやろう。
そう思って出かけたのに、帰ってきて早々、俺が帰ってくるのを待っていたかのように勢いよく央二に飛び付かれた。
「うおっ」
「煌紀、おかえり」
「あっぶねえなぁ…… てお前酒飲んでる?」
こいつがこんな風になるとしたら、正気ではない時、つまりは酒を飲んでると判断したわけだが、こっちの気も知らんで、と脱力する。クリスマスやからな、なんて思っていた自分が呪わしい。
「超頑張った俺の傑作、食べる?」
「あー、はいはい」
「親父の分すこしだけ分けておいてるから」
「おう、まあゆっくりして来い」
にやりと笑った人の悪そうな親父の顔がそれでも嬉しそうに一瞬綻んだのを見逃さなかった。お疲れ様でしたと見送り、央二とキッチンに入れば、いつもは誰かしらいるのに今日は誰一人としていない。しかも確かに豪勢な食事が並んでいる。
「お前、今日は篤郎にこんな料理教えたわけ?」
「なわけあるか。 初心者用メニューを教えたよ。 できるだけ豪勢になるように苦労したって」
「だよなあ、篤郎が料理したことあるなんて聞いたことないしな」
「これは篤郎送り出してから追加で幾つか作った結果」
「そうか、旨そうやな」
他愛もない話をしながら、その豪勢な料理を堪能し、何か言いたげにどこか落ち着かない央二を見て、俺は央二より先に切り出すことにした。
「なあ、央二」
「あ?」
「お前さ、俺とずっと一緒にいる気、ある?」
「は?」
「この先多分いろいろあると思うからな、俺。 命の危険もあるやろうし、パクられることもないとはいえんやろ? そういうの、堪えれる?」
「仕方ねえじゃん。 それがお前の選んだ道なんやったら」
央二ならそう言うかなあとは思っていたけれど、その答えを聞いて正直ほっとした。
「そうか」
「煌紀、お前まさかと思うけどそれ、告白とか言わんわな?」
「察しろ」
「いや、言えよ」
「無理」
「……なんでやくざってそういうとこ純情なわけっ」
お互いの頭をよぎったのはきっと僧堂のトップだろうことが分かって、二人で噴き出した。
「俺はお前が欲しい、央二」
好きだとか愛してるだとか、そんな言葉は口にできそうにないけれど、それでも俺はバカでアホなお前が欲しい。
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